居合い
「魔族がこの大陸にいるわけないだろうが!」
ルイスが叫ぶ。
確かにこの大陸に魔族と呼ばれる種族は居ない。
だが、別の大陸には存在する。
魔族とは、人に似て非なる者。
魔法を使い魔法の武器を持つ者達。
背が低い種族や耳の長い種族がいると聞く。
まあ、ルイスにはそれが地球のファンタジーで、エルフやドワーフと呼ばれていた種族だと、当たりがついているのだが、まだ会えた事がないのだ。
海を越えた別の大陸に住んでいて、遠洋に漁に出た漁師が、魔族の漁師にたまに出会う程度だし、その場で挨拶はするが、そのまま離れるのが慣わしになっているそうだ。
「人にあんな事が出来る訳がない……」
パロウが悔しそうに言うと、
「おや? 私が怖いのかな?」
「怖いわけがあるかっ!」
「ならばグダグダ言わず、かかってこいよ」
腰にあった赤い斧を右手で構えるルイス。
「馬で斧など、兵法も知らぬ野蛮人がっ!」
とパロウが叫びながら、ルイスに向かって馬を走らせ、槍を突き出したのだが、ルイスはその槍を斧で弾いた後、
「ほいっと!」
と言って、パロウの乗る馬に斧を振り下ろしたルイス。
馬は倒れたが、うまく着地したパロウが、
「貴様っ! 卑怯だぞっ!」
と言うが、
「戦争に卑怯とか、甘ちゃんみたいな事を。負ければ何もかも失うのが戦争だろうが! 生き残るためなら、なんだってやるのが戦争なんだよ!」
いや、この世界の戦争は、そうとも言い切れないのだが、ルイスは初参加なので知らない。
「馬から下りて正々堂々勝負しろ、魔族モドキめ!」
「まあ、下りてやってもいいが、正々堂々とか、ほんと笑わせてくれるぜ」
「剣を抜け! お互い剣で正々堂々勝負だっ!」
「はあ? そりゃお前は剣も得意なんだろうけど、俺は剣は苦手なんだよっ! なんでわざわざ苦手な武器で戦わなきゃならんのだ」
「野蛮人めっ! 王族との一騎打ちは古来より剣でと決まっておろうが!」
「聞いたことないなぁ。私は数年前まで平民だったのでな!」
「邪教徒の元平民風情が、高貴な私の手にかかって死ねる事を幸せに思うがよいっ!」
「頭の中に虫でも飼ってるのか? 私は死ぬ気は毛頭無いね」
「侮辱するな!」
「先に侮辱したのはお前だろう?」
「私は王族だからよいのだっ! そんな事も理解できんのか平民がっ!」
「偉そうに。だんだん腹が立ってきた……時間稼いでベガに任そうと思ってたけど、気が変わった」
そう言うと馬を下りるルイス。
「いくぞっ!」
「勝手にこいよっ!」
「死ねっ!」
と槍を突き出したパロウ。
「あぶねっ!」
と後退して避けるルイス。
「くっ、ちょこまかと逃げよってからに! 大人しく私に斬られろっ!」
「はいそうですかと、斬られてやるわけねーだろうがっ!」
「敬虔な信徒である私に斬られれば、神の思し召しがあるやもしれんっ!」
「ねえよ!」
そうしてパロウがルイスの振る斧のスピードに慣れてきた頃、ルイスが右上から振り下ろした斧が、空を斬りルイスの左腰あたりに到達すると、ルイスは斧から手を離し、斧が地面に落ちる前に、左腰に装備されている剣の柄を掴み、鞘から一気に抜いてパロウに斬りつけた。
それはまるで居合いの達人のような、横なで斬りだった。