秘策
「だから勝てないんですって!」
やる前から諦めているヴィオラ男爵。
「やってみなけりゃ分からんでしょうに。こちらも色々準備はしてきましたからね。とりあえず私は戦いますので。ベガッ! 馬車から投石器を下ろせ。それと例の樽もだ!」
ルイスはそう言ってベガに指示をする。
「はい閣下」
とベガが答え、部下達に指示する。
「さて、準備の時間をかせぐとするか。ヴィオラ男爵はどうします?」
ルイスはヴィオラ男爵を横目で見ながら、尋ねた。
「か……勝てますか?」
「さあ?」
「このまま逃げるのと、協力するのとでは、どちらが生き残れそうですか?」
「私は死ぬつもりありませんけど、戦ですからなんとも言えませんね」
突き放すような言い方のルイスだが、戦場に不確定な予想など、何の役にもたたないのだ。
聞く方が間違っている。
ヴィオラ男爵は数秒目を瞑って考えたのち、
「ディトロナクス男爵に賭けてみます……」
と覚悟を決めた。
「では、弓兵をお借りしたいのですよ!」
と少し楽になったと喜ぶルイス。
そうして急ぎ下準備がおこなわれ、待ちに入るルイス。
「来たな……では、先程話した作戦通りに」
ルイスがそう言うと、
「分かりました。ですが、本当にこれで勝てるのですか? というか、さっきの話は本当ですか?」
ヴィオラ男爵は不安そうだ。
「さて、どうでしょうね?」
「そんないい加減な」
「まともにやって勝てる手があるなら、聞きますけど?」
と言われたヴィオラ男爵は、口を閉ざすしかなかった。
sideパロウ
「イスディニア兵を発見しました!」
兵士の声に、
「数は?」
と尋ねる声。
「100程度かと!」
「ふむ、ならば問題ない。このまま前進するぞ」
と指示する者に、
「敵が後退していきます!」
と報告の声がする。
「させるかよ! 騎兵! 先行して奴らを足止めするぞ! 私に続け!」
と戦闘を馬に乗り進んでいた者が、馬の脇腹を蹴る。
この者こそ、赤い槍と言われたパロウである。
「パロウ様っ! 道に無数の木が倒されて通れません!」
パロウの横を駆けていた兵が、パロウに言うと、
「ええい、馬から下りて手でどけよ! 早くしないと逃げられる!」
と山道に大量に置かれた丸太の山を、排除するように言うパロウ。
「はいっ!」
と返事して馬からおり、丸太を道から移動させる兵士達であるが、数が数だけに時間がかかる。
そうこうしているうちに、途中で置き去りにしてきた味方の歩兵が追いついてきた。
「ほらみろ、グズグスするから後ろの歩兵が追いついたではないか!」
とパロウが叱責する。
だが、丸太を移動させていた兵の一人が、
「しかし敵兵との距離は離れてませんが?」
と言った。
「なに?」
と敵兵の方を確認したパロウ。
確かに距離が変わっていない。
「何か飛んできましたぁ!」
その声にパロウは、
「敵の矢かっ?」
と身構えたが、
「いえ、なんか樽のような……」
「とりあえず避けろ!」
そう指示したパロウだったが、飛んできた樽は地面に激突して壊れる。
壊れた樽の中から、黒い物体が飛び出る。
いや、それは物体というより黒い粉だ。
それが辺りに撒き散らされて、空を漂う。
「毒では無さそうだな。灰? いや炭の粉か? 目眩しのつもりか? 煙幕の代わりというわけか? こんなもので見失う訳なかろうが!」
「どんどん飛んできます!」
「とりあえず樽に当たらないように、注意しておけ」
パロウの指示で、飛んでくる樽を避けるアズマッシュ国兵士達。
樽はどんどん飛んでくる。
「ゴホッゴホッ! さすがにこれだけ粉が舞うと、息がしづらいな」
誰かがそう言った時、
「火矢です!」
と先頭にいる兵士の声がする。
「敵は馬鹿か? 建物内に居るわけでもないのに、火矢など直接人に当たらなければ、どうということはない!」
とパロウが言ったその刹那。
ドゴォオオンンッ‼︎
パロウ率いるアズマッシュ兵たちが、突然の爆発により飛び散った。




