パロウとは?
ヴィオラ男爵が、隣で馬に乗り余裕の表情で佇むルイスに、
「ディトロナクス男爵は、平気そうな顔ですが、怖くないのですか?」
と聞いた。
自身は膝が震えて仕方ないのに、自分より若いルイスの余裕の表情が不思議だったのだ。
「怖くないと言えば嘘になりますね。戦ですから死なない保証は無いわけですし。ただ人を殺した事はありますから、その違いですかね。ヴィオラ男爵は無いのでしょう?」
と静かに答えたルイス。
平民の時には、既に数人殺していたし、戦になってからは、何人殺したのか自分でも分からないルイスである。
「人どころか、魔物すら殺した事が無いのですよ」
「ゴブリンすら?」
「ありません。ですので不安で仕方ないのです」
貴族当主だとしても、この様な者はそれなりに居る。
「まあ、大部隊によるぶつかり合いの場は、おそらくイステリア草原でしょうから、こちらには来ても後方撹乱を狙った小部隊ですよ。ヴィオラ男爵の兵とうちの兵、110人の兵士を見れば、小部隊なら即撤退するでしょう。ここに居るだけでいいんだと思いますよ」
とヴィオラ男爵を安心させる様にいうルイスに、
「そうでしょうか? アズマッシュには名将が数人居ると聞き及びます。そのうちの一人が後方撹乱部隊を率いて来たなら、勝てませんよ」
と反論するヴィオラ男爵。
「こんな山道に名将は来ないでしょ?」
ルイスがそう言った時、
「来ましたぁ! 敵の数、およそ150! 先頭の兵が持つ旗は赤地に白の三角模様!」
と前方の兵から声が上がる。
フラグ即回収である。
「パッ、パロウだぁ! アズマッシュの赤い槍だぁ! 勝てない! 逃げましょう!」
ヴィオラ男爵が騒ぎ出す。
「赤い槍? パロウ? 誰ですかそれ?」
疑問をうヴィオラ男爵に投げかけたルイスに、
「アズマッシュの三名将の一人で、アズマッシュ国第二王子でもあり、不敗の将軍ですよ! 一人で1000人斬ったと言われる猛者です! 赤い鎧を着込んで槍で無双するから、そう呼ばれていますっ! しかも彼方の方が兵士が多いとなると、100人程度でどうにかなる相手ではありません!」
と早口で捲し立てるヴィオラ男爵。
「詳しいですね」
「戦は嫌いですが死にたくないので、情報だけはかなり調べましたから! さあ、逃げましょう!」
ヴィオラ男爵が撤退ではなく、逃げると言う。その発言は些か問題である。
「逃げませんよ。一当てもせず敵前逃亡は重罪ですよ? お家取り潰しモノですよ?」
そう、撤退して陣を整えるわけではなく、逃げるのは重罪であるのだ。
「家より命です!」
「重罪で牢獄行きですよ?」
「牢獄でも死ぬよりマシです!」
「勝てば良いのでしょう?」
ルイスの言葉には、どこか自信ありげであった。




