責任
さて、ウィンストン辺境伯と共に参戦したルイスの初戦は、国境よりかなり侵入された、とある子爵の領地の街であった。
街を囲む魔物避けの防壁の門は、すでに固く閉ざされ、アズマッシュ国の旗がたなびいている。
「アリスト子爵はどうなったのでしょう?」
青い革鎧を着込んだルイスが、豪華な金属鎧に身を包むウィンストン辺境伯に尋ねる。
ここの子爵は、アリスト家という古くから存在する家であった。
「屋敷に監禁されてるのが普通だが、どうだろうな」
ウィンストン辺境伯はそう言う。
占領した土地を支配し続ける場合、その地を治める貴族を生きたまま捕らえて、傀儡として統治するのが、この世界では一般的とまでは言わないが、多数派である。
ルイスはその事を知らないが。
「監禁か……」
「とりあえず門を破壊して突入といこうか。ルイスの騎兵も私の騎兵と一緒に突入してもらうぞ」
門を破壊するための丸太を、ロープで大勢で引きずり、門にぶち当てて壊すのだ。
「私も行きますよ」
ルイスが右腰の斧に手をかける。
「私の隣でゆっくりしていても良いのだぞ?」
「命を掛けない指揮官に、今後兵士が付いてくるとは思えませんので」
「確かにな。気をつけろよ? サラを未亡人にするのは許さんからな」
「もちろん! 生きて帰るために戦いますよ」
「では、行動開始といこうか。いきなりゴブリンが敵陣に入って、オークと成るとするか」
魔物大戦に例えたウィンストン辺境伯。
「私はゴブリンというわけですね」
「ルイスは翼竜に成りそうだがな」
「買い被りすぎですよ。せいぜいロックウルフかと。家紋通りにね」
ルイスの表情が少しだけ緩んだ。
門が破壊され、次々と騎兵が突入する。
門を守っていたアズマッシュ国兵士達に、イスディニア王国騎兵の槍が襲いかかる。
そうして、その場にいたアズマッシュ国兵士を殲滅した後、周りを見渡したイスディニア兵士が見た、街の中の風景はというと、破壊された家屋に燃やされた教会。
道に捨て置かれたままの、領兵の無惨な死体に、街の男達の亡骸。
蝿が集っているので、腐乱が始まっているのかもしれない。
「ひでぇ……」
突入した騎兵の一人が、その光景を見て思わず口から言葉を漏らした。
「アズマッシュの奴らをぶっ殺すぞ!」
と、他の兵士達も気合を入れ直す。
「おそらく子爵の館を本陣にしているはずだ! 敵の兵を撃退しつつ向かうぞ! 街の中央部だ!」
ウィンストン辺境伯が、兵士達に大声で指示を出し、兵士達が移動を始める。
「死体はほぼ男ですね」
ルイスが隣にいるウィンストン辺境伯に言うと、
「女子供は使い道があるからな……」
と暗い表情のウィンストン辺境伯。
イスディニア王国では、奴隷というものは認められていないが、アズマッシュ国では奴隷が認められている。
反抗的な男は使いづらいので、主に女子供が奴隷にされるのだ。
「下衆野郎どもめ……」
とルイスの眼が険しくなる。
「アレですか……」
遠くに見えた大きな屋敷に、思わず聞いたルイス。
「奴らどう出てくるかな」
ウィンストン辺境伯は、ルイスの言葉には答えない事で肯定し、その後の事を口に出す。
「普通だと、どんな感じなんですか?」
「だいたい領主を盾にして、撤退しろと言ってくるが、まあ、撤退するわけがないから、そのまま戦闘に突入だな」
「その時、領主は?」
「まあ、殺される」
「でしょうね……」
「領地を守れなかった時点で、その領主の運命は決まっている。それが領地持ち貴族の責任というやつさ……」
ウィンストン辺境伯の言葉には、重みがあった。
「責任か……」
法衣貴族で、領地を守るという責任のないルイスにとって、その言葉の重みは実感し難いものだった。




