街では
今日はこれで打ち止めです。
その頃、ウィンストン辺境伯の屋敷は大騒動である。
護衛していた二人が、いくら捜しても見つけられなかったため、屋敷にサラを街で見失ったと報告しに戻ると、サラの母親は卒倒して倒れるわ、サラの兄のケビンは、部下を連れて家から飛び出していくわで、混乱していた。
当主はなんとか冷静に務め、屋敷で情報収集の指示を出していた。
そんな混乱の最中に、門番が慌て屋敷内に入ると、ドアもノックせずに当主の執務室に入ってきて、
「閣下! 一大事です! サラお嬢様が誘拐されました!」
と大声で叫ぶ。
「なんだとっ!」
ウィンストン辺境伯も叫び返すと、
「スラムのガキが、男から手紙を預かって来たと言ってコレを! その場で私が読んで大変だと思い、ガキを確保してそのままお持ちしました!」
と、一枚の安物の紙ペラを見せる。
薄い茶色の小汚い紙であった。
「貸せ!」
ウィンストン辺境伯がそう言って、門番から紙を引ったくると、眼を通した。
そして、
「金貨100枚だとっ! ふざけやがって! サラが金貨100枚の価値しか無いわけがないだろうがっ!」
紙を手でクシャクシャに丸めながら叫ぶ、ウィンストン辺境伯。
キレるポイントが違うと思うが……
ちなみに金貨1枚は銀貨100枚の価値で、銀貨1枚は銅貨100枚の価値があり、銅貨1枚で直径10センチほどのパンが2つ買える。
「そのガキに、手紙を渡した男の人相を聞き出せ!」
ウィンストン辺境伯が叫ぶと、
「直ちに!」
と、門番が走り去る。
数分後、門番が戻ってくると、
「わかりました! スラムで幅を利かせてる、ジャックとか言うチンピラ野郎の舎弟で、通称チョロってヤツです。ガキが顔と名前を知っていました!」
その報告を聞き、
「そいつらのヤサを探せ!」
と命令するウィンストン辺境伯。
まるで、ヤの付く自由業の人間が使うような言葉だが、普段は温厚で人柄の良い男なのだが、この時は流石に荒れていたのだ。
そうしてスラムの、ジャックことチンピラ風の根城などが捜索されたが、当然もぬけの殻であり、そこにたむろしていたという5人の姿は、どこを探しても見つからない。
スラムを徹底的に捜したのに。
最終手段とばかりに、ウィンストン辺境伯は5人に懸賞金をかけて探すことにしたのだった。
一方、キラービーに追われているルイスはというと、
「ヤバイヤバイヤバイヤバイ! 追いつかれたら刺されまくって殺されて、奴らの餌になってまう!」
叫びながら必死に駆けていた。
キラービーはルイスの100メートルほど後方で、編隊を組んで飛んできていた。
キラービー1匹の大きさは、約5センチ。1匹だけなら手強い魔物ではない。
だが、無数に飛んでいるため、黄色と黒の気体が迫ってくるかのようであった。
そうして、あと少しで自分の小屋にたどり着く位置まで、ルイスは逃げてきていた。