タイトル戦
「は!」
王の命令を受け、レシピを持って部屋を出ていく、護衛の兵士。
それを見届けた後にルイスが、
「続きまして最近私、デザートの店を始めたのですが、そちらの店で出しているアップルパイのレシピになります。コレはまだどの家にも売ってないものになります。陛下に一番最初にと思いまして」
と、またレシピを渡した。
「ほう! うむうむ! その心意気、しかと受け取った。おい、コレも作らせよ!」
王が満足気に頷き、また護衛に命令する。
アップルパイも食べる気か?
「そして、こちらが、最新の11手詰め問題集になり……」
と、ルイスが言うと食い気味に王が、
「それを早う渡せ!」
と大声で言う。
慌てるナントカは貰いが少ないと言うが、王だから関係ないだろう。
「はい、どうぞ」
とルイスが応じ、宰相に手渡すと、
「先日届いた9手詰めを今やっておるが、なかなか難しいのに、11手詰めか。暫く寝れんなぁ」
問題を流し見た王が、嬉しそうに言う。
「陛下、ちゃんと寝て頂かないと、公務が滞ると、私が宰相殿に怒られそうなのですが?」
チラッと横にいる公爵を見るルイス。
「なに、あやつも9手詰めで寝ておらんから、ワシにもルイスにも文句は言わんだろ」
公爵が顔を横に向けて、口笛吹く真似をしているので、事実なのだろう。
「後で11手詰めを送りますので」
ルイスが公爵に言うと、ゆっくり頷いた公爵は満面の笑みだ。
「問題集は後でじっくりと見ることにするとしてだ。ルイスよ、チェスや魔物大戦について進言が有ると聞いたが?」
そう、今回の謁見の目的はコレだ。
「はい陛下。貴族達で大会を開くのは良い事なのですが、貴族達の中で一番強いとなった者が、この国で一番強いとは限らないでしょう?」
と話を始めたルイス。
「む? 何が言いたい?」
「チェスは基本的に貴族にしか出回っていませんが、魔物大戦は平民達も指します。そこでイスディニア王国内で、誰が一番強いかを決める大会をしたいのです」
「国で一番を決めるとな?」
「はい。私の構想では……」
と、詳細に思っている事を説明したルイス。
「なるほど、平民には金。貴族には後世まで残る物に名を刻む名誉か……それ、ルイスも出るのか?」
そこにこだわるのか王よ。
「私が出ては面白くないでしょうから、私は出ないことにして、例えば、ルイス杯争奪イスディニア魔物大戦名人戦とか、棋聖戦とか、竜王戦とか作れば面白いかと。なんなら陛下の御名前で、チェリオット杯争奪でも良いかもしれませんね」
王の名を出したルイスの悪どさよ。
「ワシの名が永遠に残るということか?」
反応してしまう王に、
「チェスで既に陛下の御名前は残せると思いますが、魔物大戦でも陛下の御名前を残せるかと」
悪どい笑顔のルイスだが、それに気がついているのは、ルイスの横で黙って話を聞いているサラだけだろう。
「ふむ。気に入った。名人戦とやらはルイスの名を使え。ワシは竜王戦が良いな。家紋が翼竜だしの」
と決めた王に、
「ならば棋聖は私がっ!」
公爵が横から思わず口を出す。
「決まりですね。詳細など詰めましょうか」
その後、三人の話に構ってなどいられないと、サラは王城のテラスにて王妃達とお茶会を開き、サラが持参したアップルティーは、大好評だったという。
サラがルイスと再び合流したのは、夕食の時だったった。




