ルイス夫妻、王都へ
「では行きますか」
馬車の御者を兼ねたディトロナクス男爵兵が、、馬車の中に乗っているルイスとサラに、そう声をかけた。
「王都に向け、しゅぱーつ!」
と、サラが元気よく返事した。
今回の旅の目的は、王が主催する魔物大戦とチェスの大会である。
馬車が動き出すと、ルイスの隣に座るサラが、ルイスに腕組みしながら、王都での予定を聞いてくる。
「チェスの方は、ルイスは出場しないのよね?」
「うん、陛下がお前は出るなってさ。本気でチェス大会の優勝を狙っておられるようだよ」
そう、ルイスは魔物大戦には出場するが、チェスには参加しない事になっている。
「チェスは駒の動きが激しいから、私苦手なのよね。じっくり指せる魔物大戦の方が好きだわ」
「私も魔物大戦のほうが複雑で好きだよ」
「火水大戦は出るの?」
一応、貴族の子供にも楽しんで貰おうと、火水大戦大会も企画されている。
「あっちはもう出ないよ。リベアランス伯爵の娘さんが、優勝候補みたい。元々得意でも無いから出たら負けそうだしね」
と、ルイスが笑う。
「負ける戦はしないって事ね」
「うん」
「結局ルイスは何しに行くの? 魔物大戦だけ?」
「魔物大戦と、魔物大戦でタイトル戦の提案をしようかと」
「タイトル戦?」
「今大会に出られるのって、貴族だけじゃない?」
と疑問形でサラに問いかけるルイス。
「そうね」
「平民達も地方予選みたいなのに参加して貰って、イスディニアで一番強い人を決めたら面白いかなって思って」
「平民も参加させるのね」
「優勝金額を金貨10枚くらいにしたら、平民達は盛り上がりそうでしょ」
「貴族には?」
「貴族が欲しいのは名誉だから、大きなカップでも作って、そこに歴代の優勝者の名を刻むとかにしようかと思ってる」
貴族とは面子と名誉を重んじる。
「歴代ってことは、100年後とかでも、自分の名前が残るってこと?」
「そう。何代目優勝ってね」
とか言いながら、ルイスとサラは護衛に護られながら、約10日の馬車の旅となる。
途中、特に問題もなく王都に到着するディトロナクス男爵一行。
ルイスは、リベアランス伯爵の屋敷に、厄介になる予定であるので、リベアランス伯爵の屋敷に到着すると、その日は何事もなく就寝……できるはずもなく、リベアランス伯爵の屋敷に先に到着していた、ウィンストン辺境伯も交えて、リベアランス伯爵家の人々と、盤を挟むことになる。
翌日、王城に出向いたルイスとサラ。
謁見の間にて、玉座に座る王に膝を突き、
「陛下、お久しぶりにございます。ルイス・ウィンストン・ディトロナクスでございます」
と言葉を発したルイスの横で、スカートを両手で掴んで会釈するサラが、
「妻のサラフィス・ディトロナクスでございます」
と述べる。
サラのした仕草が、この国の貴族の女性の、王族に対する礼の仕草である。
「うむ。ルイスよ、よく来たの。サラフィスは久しぶりじゃの。前にウィンストンに連れられて来たときはまだ幼き女子であったが、良き女性に成長したの。そういえばヘンドリックから聞いたが、披露パーティーで色々出したらしいのう。ワシには何か無いのか? レシピとか買った貴族が大勢いるとの事だが?」
王は何故か不機嫌なフリをして、ルイスに問いかけた。
貴族達がルイスから買ったレシピは、ルイスの許可無く他家に教えたり、商売使うことをルイスが売る時に禁じているため、王家はまだ知らないし、ヘンドリックは王族のため、貴族からモノ、この場合はレシピだが、買うという事はしていない。
王族は献上されたモノに対して、褒美を渡す事はあっても、買う事を善としていないからだ。
「もちろん陛下が喜ばれると思うわれるものを、持参しております。持ってきてもよろしいでしょうか?」
ルイスが言うと、
「許す!」
と王が応じ、
「では、すぐに戻って参りますので!」
と、部屋から一度出て、部屋の外に待たせていた部下から荷物を受け取り、戻ってくる。
「陛下、お待たせ致しました」
と、紙の束を見せたルイス。
「コレは?」
「ご説明申し上げます。先ずはこちらが、披露パーティーで出した料理のレシピになります」
束の一番上にあったモノを、ルイスが王の横に立つ宰相に渡す。
王が直接受け取ったりはしないのだ。
「ほう。ヘンドリックが絶賛していたプリンとやらも、載っておるのか?」
「もちろんでございます」
「おい、料理長にすぐにプリンとやらを作るように言え!」
王がそう命じた。
プリンが食べたくてしかたなかったようだ。




