貴族達の会話
「またディトロナクスか……」
そう言った茶髪の男が、槍兵の駒を1つ前に進める。
「妻の名を店名に使うなど、夫婦仲が良さそうな事で」
対面に座る金髪の男が、動かされたばかりの槍兵の駒を、自分の騎兵で取った。
「ああ! まあ、アップルパイは美味いし、パンケーキと生クリームは絶品だが、うちの妻が、レシピをまた買ってこいとうるさくてな」
と言いながら、茶髪の男が騎士の駒を進める。
「前に、プリンのレシピを売ってくれたから今回も、というわけか?」
金髪の男も騎士の駒を動かした。
「ああ、金額はさほど問題では無いが、度々新しいモノを出されて、その度に買わされては額も馬鹿にできんしな」
弓兵を動かした茶髪の男の表情は、自信満々だ。
「前にプリンのレシピを売ってくれたのは、特別にだろう? 売ってくれるのか?」
少し思案して、小隊長の駒を動かしながら、金髪の男が疑問を口にすると、
「打診したら、考えても良いと返事が来た」
動かされた小隊長の駒を、弓兵で取って満面の笑顔の茶髪男。
「相変わらず人の良い事で。よし、コレでチェクメイトだ」
と金髪の男が言うと、
「ああああっ! また負けたのか!」
茶色の髪を掻きむしりながら、悔しそうな男。
「お前は防御の駒を攻めに使いすぎる。誘ったらホイホイ出てくるようでは、勝てんぞ? 来月は陛下主催のチェス大会だぞ? デザートのレシピ入手より、チェスの腕を磨いた方が良いのでは無いか?」
と、金髪の男は諌めたのだが、
「陛下と毎日会うわけではないが、妻達には毎日顔を合わせるのだぞ? 妻達の機嫌を取るのは大事だろう?」
「否定はしないがな……ウチのも毎日のようにプリンを食べてるしな」
「そういえばチェス大会には、ディトロナクスも来るのだろう?」
「そりゃ発案者だからな。チェス大会には参加しないということだが」
「ディトロナクスが出たら、魔物大戦大会のように、誰も勝てずに連覇されてしまうからな。陛下も自分が勝ちたいから、ディトロナクスを参加させないようにしたのだろう」
「気持ちは理解できるな」
「ヤグラを攻略出来そうだと思ったら、今度はアナグマという囲い方だとさ。考案者だし仕方ないかもしれんが、ディトロナクスと当たれば負け確定だから、くじ運任せになりつつあるな」
「頭の中がどうなってるのか、知りたいものだな」
「気持ちは分かるが、頭をかち割って実際に見るとか許されんぞ。もはや、ディトロナクスは単なる男爵では無いからな。今や文化のディトロナクスだ。新しい文化はあの家から発信されるのだ」
「分かってるさ。わざわざ敵に回るような真似はしないよ。ただジョセフが少し羨ましいだけさ」




