会席料理?
そしてルイスが、料理の説明をする流れになる。
「皆さま、私達夫妻のために足を運んで下さり、誠にありがとうございます。私達夫妻からの、心からの御礼と致しまして、私の考案致しました料理を、ご堪能頂ければと思います。では、先ずは前菜から」
挨拶を述べてから、運ばれてきた前菜の説明を開始する。
「これは?」
主賓の席に座る、ヘンドリック王太子が聞いてきたので、
「豆を煮込んだものを砕き、搾った汁を火にかけ、汁の表面に固まったものを掬い取り、香味野菜をサッと茹でたものを巻き込みました。横の小皿のソースに付けてお召し上がりください」
と説明したルイス。
各席でも、メイド達が同じ説明をしているはずだ。
それは、湯葉と生春巻きを足して、2で割ったような食べ物である。
「ほう。初めて食べる食感であるな。このソースも絶品だな」
ソースと言っているが、醤油ベースの自家製ポン酢である。
醤油はルイスが造らせた。まだ世に出してはいないが。
「次はスープです。先ほどのものと同じ豆から搾った汁を固めたものと、葉野菜になります」
そうルイスが説明したスープだが、どう見ても豆腐の入った赤ダシの味噌汁だ。
葉野菜はほうれん草に似ているが、現地の野菜だろう。
味噌ももちろんルイスの指示により創り出されたものである。
「豆の汁から作ったというが、この食感は面白いな」
ヘンドリック王太子は、豆腐を気に入ったようだ。
「次は、牛の肉の塊を焼いて、その中心部だけを取り出したものになります」
本当は刺身を出したかったルイスだが、この世界で生魚を食べる風習は無いし、そもそも新鮮な魚が流通していなかった。
なので刺身の代わりに、レア状態の牛肉のタタキを出したのだ。
「生に見えるが、火は通っているというわけか」
「次は豚肉を、二日間煮込んだものです」
醤油と砂糖と酒を合わせた汁に、二日も煮込んだものだが、見た目はどう見ても角煮だ。
「ナイフがっ! ナイフの重さだけで沈んでいくわっ!」
「柔らかい! しかも美味い!」
と、ヘンドリック王太子夫人達にも、かなり好評である。
「お次は、牛と豚の肉を砕いて、玉ねぎとパン粉を混ぜ合わせて焼いたものになります」
うん、どう見ても合い挽き肉のハンバーグだ。
「加熱して溶かした豚の脂に、小麦粉を塗した鶏肉を入れて火を通したものになります。横に添えてあるレモンを搾ってかけてお召し上がりを」
唐揚げモドキだ。
「卵を使った蒸し物になります」
茶碗蒸しだ。
「蒸した穀物に、ソースに掛けながら焼いた魚を乗せたものと、澄んだスープに、ピクルスです」
どう見ても、鰻重と三つ葉の澄し汁に、キュウリの浅漬けだった。
「卵と、牛の乳を使ったデザートです」
プリンと生クリームだ。
何故か女性達がプリンを食べて泣いている。
「お願いだからデザートのレシピを売ってちょうだい! お金ならいくらでも出すわっ!」
とある公爵夫人のそんな発言により、
「私にも!」
「私はこの魚のソース焼きのレシピをっ!」
などと、場内が騒然とする。
「皆さんお静かに!」
ウィンストン辺境伯が、その場を鎮める。
「ルイス、遠くまで足を運んで祝って下さった方達だし、レシピをお売りしては?」
サラッと[売る]ことを前提としたウィンストン辺境伯。
「うーん、分かりました。ご希望の方にはレシピをお売り致します」
それを理解したルイスは、悩むフリだけして快諾する。
まあ、レシピは料理人にとっては生命線なので、明かす事はないのが常識であるので、売って貰えるとなると、貴族達の反応は、
「おおおっ!」
となるのである。
なかなか悪どい二人だ。




