悪ノリ
酒と言えば、ルイスはここでも暴走している。
ウィンストン辺境伯と協力して、様々な酒を既に完成させていたのだが、ウィンストン辺境伯領がリンゴの産地だったので、それをフル活用したのだ。
ブドウではなくエールも使わず、リンゴを原材料として、アップルブランデーをウィンストン辺境伯に提案した。
また果汁でなく搾りかすと皮をベースにしたカストリアップルブランデーという、廃品利用をした安酒も造り、ウィンストン辺境伯領民の心の支持が爆上がり中だ。
アップルブランデーを作る前段階である、アップルワインは糖度がある為、発酵し易かったので、いわゆる発泡酒的な、スパークリングアップルワインもできた。
アップルワインにアップルブランデーの他にも、芋焼酎のようなものなど、様々な酒を世に送り出したルイス。
だがここで、一つ不満があった。
酒の色だ。
透明な酒がこの世界に無かったのだ。
ルイスは炭職人だったし、今も炭焼職人兼護衛を抱えているから、炭はたくさんあるわけで、
「あ! 炭でろ過すれば、透明な酒がつくれんじゃね?」
と思い付き、早速行動に移す。
お酒を炭素ろ過、つまり砕いた炭を酒に入れ放置して、その後布越し工程を経て樽詰した。
そうすると酸味、雑味、異臭、色等が除去されるので、例えば日本酒やウオッカ、ホワイトラムにジョージアブランデー、カナディアンウイスキーのような澄み酒、つまり透明な酒を作り出すことに成功した。
これを高級酒として、ルイスブランドとして立ち上げ、販売することにした。
販売のほうはウィンストン辺境伯家に委託して、利益をウィンストン辺境伯家に分配する事も忘れないルイス。
一人勝ちは他から恨まれるのは、前世でブラック企業に勤めていた時に、嫌というほど味わっていたからだ。
上司にも旨みを分配するのは、世渡りの常だ。
何度、後ろから刺されそうになったか、思い出しても背筋が凍るルイス。
揶揄ではなく、本当にナイフで刺されかけている。
もちろん返り討ちにしたのは言うまでもないが。
いったいどんなブラック企業なのか、大変気になるところだ。
さて、今のルイスは、屋敷と小屋を行き来しているのだが、貴族になった事で移動のスピードが格段に早くなった。
何故なら馬を購入したからだ。
貴族たるもの、移動に馬や馬車は必須である。
ここでも前世の知識を活用し、乗り心地の良い馬車を作り出したルイス。
コイルスプリングを作らせ、各車輪毎に配置したため、乗り心地が格段に改善されたのだ。
これで尻が割れる事はないだろう、いや最初から割れているが。
ルイスの馬車に乗った、ウィンストン辺境伯はルイスの馬車の乗り心地に驚愕し、ルイスがコイルスプリングを作らせた職人達に依頼して、ルイスのものと同じ型の馬車の販売を始めた。
コレが貴族や商人達に好評で、値段が高めの設定なのに、3年先まで予約でいっぱいになったらしい。
ちなみにルイス専用の黒い馬の名は、ジーテーアールである。
何故ド○イにしなかったのか理解に苦しむ。
馬車の馬はというと、手綱にカタカナで、コム○イと書いてあるし、馬車も横に○サイと書いてあるのは、悪ノリが過ぎる。
この時のルイスは18歳。
イスディニア王国を、良い意味で混乱させた風雲児が、貴族達から注目を集めていることなど知りもせずに、自分の生活を豊かにする為、邁進していた時期である。
そして、とある事件に巻き込まれた時でもあった。




