誘拐
ルイスは、午後からは山の中で斧を振り、木を切っていた。
細めの太さの木だったので、斧の一振りで切り倒すというか、へし折ることが出来た。
日本で山を持っていたルイスなりの、間伐材を利用した炭焼きなのだ。
だが、今日のルイスはツイていなかった。
木の上に、スズメバチの魔物、通称キラービーの巣があったのだ。
木が倒された事により、キラービーの巣が地面に叩きつけられる。巣の中から大量のキラービーが飛び出てきて、ルイス目掛けて襲いかかってきた。
「ヤベェ!」
ルイスは慌てて、自宅に向けて走り出す。
その手に斧を持ったまま。
ルイスがキラービーの巣を、地面に叩き落としてしまう少し前、5人の男達が、山の中の細い道を走っている。
その中で一人の大柄な男は、一人の少女を肩に担いでいる。
少女は手足を縛られ、口には猿轡をされている。
実はこの少女、この地の支配者である、ウィンストン辺境伯の娘であった。
名をサラと言う。
今年15歳になる金髪で青い瞳の、美しい少女だ。
細くしなやかな手脚に、大きな瞳。白い肌にクビレた腰つき。丸く張りのあるお尻が自慢だが、残念ながら胸の主張は少ない。せいぜいBカップあるかないかといったところだ。胸さえ大きければ完璧なプロポーションなのに、残念である。
さてこの日、サラは護衛2人を連れて街に買い物に来ていた。平民が着るような服装で。
俗に言うお忍びというやつだ。
買い物の途中で、護衛を撒いて遊ぶのが、いつもの恒例行事である。一部の耳の広い者達に知られるくらいに。
この日も、護衛から逃げて一人で街を歩いていた。
少し治安の悪い地域に紛れ込んでしまったサラは、身の危険を感じ引き返そうとしたその時、伸びてきた男の手で、脇道に引き摺り込まれた。
そのまま手足を縛られて、今に至る。
「親分、まだですかい?」
山の中には似つかわしくない、モヒカン頭の男がそう言うと、
「もう少し走れば炭焼き小屋がある。ガキが一人居るだけだし、ガキを殺してしまえば、潜伏するのにちょうどいい! そこに女を隠して、身代金を貰うまで隠れりゃいい! 金が入れば隣国のアズマッシュにトンズラだぁ! それよりちゃんと辺境伯の家に、身代金要求の手紙を届けたんだろうな?」
いかにもチンピラ風な、軽薄そうな顔の男がそう言う。
「ちゃんとスラムのガキに、銅貨を渡して門番の男に届けさせやした。そのままガキが捕まるところまで、確認済みでさぁ! たんまり身代金をぶんどりましょうや!」
小柄で小狡い感じの男がそう言うと、
「金持ちになれるぞ! ヒャッハー!」
ノッポで顔の長い男が叫ぶ。
「うぇーい!」
と、少女を担いている大男が、野太い声で奇声を上げた。まるでパリピのように騒ぐ男達。
「お! 見えてきたぞ! アレだ!」
チンピラ風がそう言うと、
「おっし! さっさと行ってガキを殺しますか!」
と小柄の男が舌舐めずりした。
この男は、実は快楽殺人者だ。
自分より弱い人間を、いたぶりながら殺すのが大好きな異常者だ。完全にクソ野郎だ。
「おう!」
と、チンピラ風親分が笑う。
バタンと小屋のドアを無言で開け、小屋の中に入る男達。不法侵入である。
「誰もいやせんぜ?」
小柄の男が言うと、
「外を見てこい!」
とチンピラ風が命令する。
「ヘイ!」
と、ノッポが小屋から出ていき、あたりをグルリと回ってから、小屋に戻ってくる。
「やっぱり誰もいませんぜ?」
その報告を聞き、チンピラ風は、
「あのガキ、木でも切りに行きやがったのかな? まあいい、お前達はガキが帰って来ないか外で見張ってろ。ガキが帰ってきたら殺せ!」
と命令する。チンピラ風は冒険者の経験があり、少年の仕事や顔を知っていた。
「親分は何するんです?」
モヒカンがチンピラ風に聞くと、
「決まってるだろ! 貴族の女を抱けるチャンスなんかもう無いんだぜ?」
そう言って、ニヤリと笑うチンピラ風。
コイツもクソ野郎だ。
「え? 女は身代金と交換で無事に返すんでしょう?」
ノッポが言うと、
「そんなの、生きてさえいりゃいいのさ。たとえ何をされてようが、怪我をしていようが、生きてさえいればな!」
悪い顔でチンピラ風が言うと、
「あ! 親分、頭良いっすね! 俺もしたい!」
モヒカンが言い、ほかの男達も頷く。
「俺が終わったら、ヤッていいからしっかり見張りしながら、順番きめとけ!」
チンピラ風がそう言うと、
「うっひょう! 親分、話分かるぜ!」
と、モヒカンが両手を上げて喜ぶ。
「じゃあしっかり見張ってろよ!」
そう言いながら、チンピラ風が小屋から手下達を追い出す。
「へーい!」
と、手下達は小屋の外で待つ事にするのだった。
21時にもう1話上げます。