暴走
そうして、王都からウィンストン辺境伯領への帰路の途中、馬車の中ではルイスとウィンストン辺境伯との話し合いが続く。
話の内容は、正式にウィンストン辺境伯の派閥に入る事。
まあこれは当然である。
世話になった貴族を、裏切るわけにはいかない。
魔物大戦や酒などの販売は、ウィンストン辺境伯家が継続する事になり、利益の1割はこれまで通りルイスの収入とする事を確認。
新しい酒についてはその都度交渉。
ルイスが住む小屋のある山を、ディトロナクス男爵家の荘園とする事とし、生産される炭をウィンストン辺境伯家に卸す事。
ルイスの弟子として住み込み修行していた、ウィンストン辺境伯家の従士の子は、ディトロナクス男爵家の従士として雇う事。
ウィンストン辺境伯の屋敷の近くに、ディトロナクス男爵家の屋敷を買う事。
セバスチャンの二男を家令として雇う事。
等々、色々決まっていく。
そうして、ウィンストン辺境伯領に帰ったルイスは、暫く忙しい毎日を送ることになる。
それなりの屋敷を手に入れたルイス。
金は何故か潤沢にあった。
ルイスは知らないうちに、魔物大戦や火水大戦、リンゴ酒のマージンで大金持ちになっていたのだ。
また、本来なら騎士になるはずだったルイスには、騎士としての鎧を持たなくてはいけなかった。
『騎士は仕える貴族と国のために戦う』という決まりがあるため、戦闘に耐えうる鎧が必要なのだ。
コレを、ウィンストン辺境伯家の馴染みの職人に発注。
「どの様なモノになさいます?」
と職人に聞かれ、全身金属の鎧を勧められたが、
「あんなモノ、重くて動けない」
と拒否。
ルイスが紙に描いた“ モノ ”を基本に、ほぼ全て革鎧で左肩のみ金属とし、色を青にする事を決める。
例の緑の量産型巨人の左肩である。
次に、武器職人と主武器となる斧の打ち合わせ。
それと小さめの盾の製作も依頼する。
職人が、見たこともないような斧と盾の絵を描き、色まで指定する。
斧は赤、コレも緑の巨人が使っていたモノを連想させる斧だし、盾は緑の巨人の右肩に取り付けられていたモノを、左手に持つように改良したモノだ。
色はもちろん鎧に合わせて青だ。
盾に変なマークが描かれている。
それは簡略化した狼の横顔。
そして兜は、まるでアメリカンフットボールのヘルメットのような形状である。
頭頂部には緑の巨人の指揮官機の頭部に付く、隊長マークの角が装着されている。
ルイスは完全に暴走してしまった……
ちなみに狼の横顔のマークは、ディトロナクス男爵家の家紋という事になってしまった。
恐竜の家名なのに狼とは……
ついでに説明すると、イスディニア王国王家の家紋は、翼を広げて飛ぶ翼竜であるし、ウィンストン辺境伯家の家紋は、大きな亀のようなアースドラゴンである。




