チェスと男爵と私
「これがそうか……」
盤と駒、それにルールの説明書を見て、王が言葉を発する。
時は昼食が終わってすぐだ。
「はい陛下。奪った駒を使えない遊戯です。名前は、陛下と先代様から文字りまして、チェスと名付けます事をお許し願えますでしょうか?」
そう、伺いを立てたルイス。
たまたま王の名が、チェリオット・スターク・イスディニアであったのをいいことに、さも王の名前を文字ったと言うルイスの腹黒さには、言葉が出ないが。
聞かれた王は、腕を組み考える素振りをする。
そして、口を開いた。
「ワシと父上の名からか……騎士ルイスよ! チェスと名付ける事を許す! というか、褒めてつかわす! さあ、ルールを早く説明するのだ!」
台詞の後半の勢いが凄かった。
そして、ルールは説明書に書いてあるだろう王よ。
ルイスはそんな事を思いながらも、
「はっ!」
と頭を下げてから、ルールの説明をした後、ルイスは王とチェスをする。
夜中まで……
王はチェスをものすごく気に入り、王家から独占販売する事にしてしまう。
そして次の日。
「えっ? 私が男爵⁉︎」
対面に座り、チェスを指す王が、槍兵の駒を動かしながら言ったの言葉への、ルイスの返答がこれだった。
「うむ。ワシと父上の名から名付けられた、このチェスは魔物大戦と同じく、秀悦な遊戯である。この功績に、ルイスを男爵とする事によって応えることにした。またチェスの収益の一部をルイスに支払う事も約束してやる。お前に領地をやろうと思ったが、今は渡してやれる領地が無いから、領地無しの法衣貴族で我慢しろ。今まで通り、ウィンストン辺境伯領に住んでいても構わん。明日までに家名を考えよ!」
一気にそう言われたルイス。
騎士の認定から一週間も経たずに、男爵になってしまったのだ。
「のんびり平和に暮らしたいと思っていたのに、なぜこんな事に。ツイてない……」
言葉には対面に王が居るため出していないが、ルイスの本音はこれだった。
その後、ウィンストン辺境伯領に帰るまで、王城にて、さまざまな貴族と、チェスや魔物大戦をやり、貴族の子供と火水大戦をする事になったルイスは、寝不足でヘトヘトになって帰ることになる。
そうそう、ルイスの家名だが、
「ディトロナクス?」
「はい陛下。ディトロナクスにしようと思います」
「不思議な響きじゃが、良いだろう。では、これよりルイス・ウィンストン・ディトロナクスと名乗るがよい」
平民の出であるルイスの場合、ミドルネームは騎士にしてくれた貴族の家名を入れる慣わしであるため、このようになる。
ウィンストン辺境伯ゆかりの者であることが、すぐに分かる名である。
ちなみにディトロナクスとは、地球でかつて存在していたとされる、ティラノサウルスの近縁の恐竜の名である。
何故この名を選んだのか理解に苦しむが……
この日、イスディニア王国で50年ぶりに新たな貴族、ディトロナクス男爵家が誕生したのであった。




