失言
その後、ルイスは将棋で言うところの平手打ち、つまり対等に魔物大戦していたが、圧勝に次ぐ圧勝だったため、ハンデとしてまずは飛車角落で指す。
だが、たいして変わらなかったので、今度は飛車角と香車落ちでやるのだが、それでもルイスは一度も誰にも負けていなかった。
まあ、ウィンストン辺境伯は、さすがと言うべきか、途中まで優勢に進めていたのだが、ルイスの勝負手により、差し間違えて逆転負けしていた。
何度目かの対局の時、
「取られた駒を使えるのだから、いくら駒落ちでやっても勝てんのだ」
王が呟いた言葉に、
「取った駒を使えないルールの遊びもありますけどね……」
と、ルイスがうっかり口を滑らせた事により、
「「「「「「「「なにっ?」」」」」」」」
その場の全員がルイスを見た。
「ルイス! それは初耳だが?」
ウィンストン辺境伯がルイスに言うと、ルイスは慌てて取り繕ったように、
「あ、えっとまだ、構想中というか、ルールを決めている最中なんです」
と、なんとか誤魔化した。
「いつ決まるのだっ⁉︎」
王の顔がルイスに迫る。
「いつでしょう?」
と、若干引き気味でルイスが言うと、
「決まるまでは返さんぞ!」
王がルイスを睨んで言う。
「ええっ?」
「努力すると今日言ったばかりだろう!」
確かに言ったが、それを今持ち出すのか王よ。
「そう言われましても、今も魔物大戦を指してますし、考える時間がなかなか取れず」
と言い訳したルイス。
「よし! 皆の者。新しい遊戯を早くやりたいよな?」
王の問いかけに、その場に居る貴族達が、ウンウンと首を縦に振る。
「では、今指してる魔物大戦で、今日は終わりとして、明日からルール決めを進めて貰うという事に異議のある者はいるか?」
周りを見渡しながら言う王に、
「「「「「「「「異議無し!」」」」」」」」
貴族達の言葉が全員一致した。
それはもう、恐ろしいくらいのシンクロ率だった。
もしかしたらシンクロ率200%を超えていたかもしれない。
危なく帰って来れなくなるところだ。
「では、そういう事で、新しい遊戯のルールを明日から考えるように!」
ビシッと音が聞こえそうな感じで、ルイスを指差して命令する王。
「はい……」
ガックリと首を落とすルイス。
哀れルイスは、この日から王城に缶詰状態で、王に急かされつつルールを考え、駒を手彫りで作ることになる。
まあ、ルールは考えるまでもないのだが。
出来上がったのは、チェスである。
ルールの説明書には、キングは指揮官、クイーンは騎兵、ビショップは小隊長、ルークは弓兵。ナイトはそのまま騎士、ポーンは槍兵と書き換えられているが、紛れもなくチェスであった。
駒を裏返すことのないチェスなので、立体的な駒を彫るほうに、時間がかかっただけである。




