謁見
ウィンストン辺境伯とともに、王城に到着したルイスは、城の警備の者達から簡単なボディーチェックを受け、腰に差していた短剣を預けて、入城を許される。
そして控室で身なりを整えた後、謁見の間にて王を待つ事になる。
「控えよ! 陛下の御入場である」
イスディニア王国宰相、スコット・マクガイン・デザトリス公爵が、その場に居る者達に声をかける。
顎髭の長い頑固ジジイという感じだろうか。
頭頂部の薄いブラウンの頭髪に、同じくブラウンの瞳を持っている。
ルイスはもちろん、中央の両脇に並ぶ貴族達も、膝を突いて頭を下げる。
そして、ゆっくり歩いて入室した王は、玉座に座る。
短めの銀髪に、緑の瞳。整った顔立ちのせいか、歳は45歳なのだが、若く見える。
「ふむ。皆の者、面をあげよ」
と、王が声をかける。
皆が顔を上げると、王はルイスの顔を見て、
「お主がルイスか。見た目は普通じゃの。ワシがイスディニア王国の王、チェリオット・スターク・イスディニアである」
低い声がその場に響く。
「はっ! 御尊顔を拝見出来、恐悦至極に御座います」
ルイスは、練習した台詞を述べる。
「お主が発案した魔物大戦と、火水大戦。それとリンゴ酒やレモン酒等、騎士認定するに充分な貢献があったと認める。これよりウィンストン辺境伯家の騎士として、よりいっそうイスディニア王国に貢献するように」
王が述べた言葉にルイスは、
「謹んでお受け致します。陛下の御言葉を胸に刻み、よりいっそうの努力をし貢献を誓います」
と、これも練習した台詞であるが、誓いの言葉を宣言する。
「ふむ、その言葉しかと聞き入れた。では早速貢献してもらおうかの」
そう言ってニヤリと笑うイスディニア王。
「え?」
予定外の王の言葉に、声を漏らしたルイス。
「もちろん魔物大戦じゃあ! 準備せよ!」
玉座から立ち上がって、大声で王が言うと、
「はっ!」
と、傍に控えていた者が、そそくさと机を運んでくる。
「陛下! 私も発案者とやりとうございます!」
デザトリス公爵が言うと、
「陛下だけズルいですぞ!」
と他の貴族達もワイワイと言い出した。
「順番じゃ! もちろんワシが一番最初じゃぞ?」
と王が言うと、
「へ、陛下、よろしいでしょうか?」
ルイスが恐縮しながら発言する。
「なんじゃ?」
とルイスを見て王が聞くと、
「皆さんの相手を一人ずつしていては、時間がいくらあっても足りませぬ。ですので、全員のお相手をさせてもらいますので、皆さま魔物大戦盤を並べてもらえますでしょうか? そうして、私が次々と回ってお相手していきますので、私が指しに回って戻って来るまでの間に、一手指してもらうことにして、それまでに指していなかった場合は時間切れで負けという事にしていただけないでしょうか?」
そう提案すると、ウィンストン辺境伯が、
「私の屋敷でやってるルールということか?」
と聞いてきたので、
「はい。ウィンストン閣下と、いつもやってるやつです」
とルイスが答えると、ウィンストン辺境伯がその場にいる者達に、内容を説明した。
その説明を聞き、王がルイスを見て、
「ふむ……それなら一局だけではなく、何局か指せるということか?」
と聞いてきたので、
「その通りでございます陛下」
と頭を下げるルイス。
「よし! 決まりだ! お前達、どうせ自分の盤を持ってきておろう? 準備いたせ!」
王がその場の貴族に命令すると、
「「「直ちに!」」」
と貴族達が走って盤を取りに、謁見の間から飛び出していく。
そして、多くの机と椅子が持ち込まれ、魔物大戦盤がズラリと並べられた。
「ふわぁああ……いったい何人いるんだ?」
と呟いたルイスに、
「44人だってさ」
とウィンストン辺境伯が教えてくれた。
「そのうちの一人は、ウィンストン閣下ですよね?」
「もちろんだろう?」
「ですよねぇ」
ルイスはそう言って、盤の前に座る貴族達を改めて眺めながら、
「今日帰れますよね?」
ウィンストン辺境伯の顔を、マジマジと見ながら聞いてみた。
だが、帰ってきた言葉は、
「おそらく?」
であった。
「なんで疑問形なんですか?」
「陛下も負けず嫌いだからなぁ。献上した時、私は帰らせて貰えなかったが、さすがに皆の手前だしな」
ポンポンと肩を叩いて、席に向かうウィンストン辺境伯。
「なんでこんな事になったんだろ……ツイてないな……」




