ルイスがオカシイ
魔物大戦を終え、ルイスが充てがわれた部屋で眠りにつく頃、ウィンストン辺境伯と、リベアランス伯爵は、応接室で酒を交わしていた。
「道中問題なかったかい?」
と尋ねたリベアランス伯爵に、
「ないと言えばないし、あると言えばあるな」
と、どっちやねんとツッコミ入れたくなる返事をした、ウィンストン辺境伯。
「どのような?」
と聞き返したリベアランス伯爵に、
「また一つ村が潰れてたし、エンド卿の領地の荒れ具合は酷いし、王都近くの街道には野盗は出るし」
との答えに、
「野盗は私の責任だね。すまない。王都内で手一杯でね。おそらく、その潰れた村の者が、王都に来たんだろうけど、王都に来ただけでは職など無いからな」
このリベアランス伯爵の推測は正しい。
ウィンストン辺境伯達に倒された野盗は、道中に見かけた、魔物に襲われて潰れた村の男達だった。
魔物に襲われ、王都まで逃げてきたが、男達に職は見つからなかった。
女子供は、女中や小間使いなどの仕事を、村と取り引きの有った商人が世話してくれたりして、どうにかなったが、男達には農家の小作人しかなく、それも受け入れてくれる人数は、少数だったため、若い男に譲らざるを得なかった。
残った中年達は、食うに困り野盗へと身を落としたのだ。
「だな。何か技術が無いと、王都で職は見つからないだろうな」
「怪我人は出なかったかい?」
「野盗に負けるような護衛は、ウチにはいないよ。ルイスも含めてな」
「ルイス君も、戦闘に参加したのかい? 見たところ細身で強そうに見えなかったが?」
そう言ったリベアランス伯爵に、
「ちょっと理解が出来ないくらい強かったぞ。短剣を振る腕が見えなかったからな」
と答えたウィンストン辺境伯。
「え? ジョセフが?」
と疑問の声を上げたリベアランス伯爵。
何故ならウィンストン辺境伯は、リベアランス伯爵と同じくらい武闘派の貴族であり、腕もかなりの達人だと知っているからだ。
「パトリック、明日の朝にでも、ルイスの腕を見てもらえんか? 私の眼が衰えたのか、ルイスがオカシイのか確認したい」
と頼んだウィンストン辺境伯に、
「いいとも」
と応じたリベアランス伯爵。
そして翌日の朝、王城へ向かう前に、ルイスの腕前を見る事になる。
用意された丸太を、ルイスに短剣で斬りつけさせただけなのだが、スパッと切り落とされた木を見て、
「見えんっ! この私にも!」
これが、リベアランス伯爵の感想だった。
「やはりか。私の眼がオカシイわけではなかったので良かった」
どこかホッとした表情の、ウィンストン辺境伯。
リベアランス伯爵は、
「ルイス君、君、その剣の腕はどこで磨いた……いや誰に師事したんだい?」
と尋ねたのだが、
「え? 自己流ですが?」
と返され、
「誰かに教えを受けたわけではないのかいっ?」
「ええ、山でゴブリンなどは倒してましたけど、その程度ですよ?」
「それにしては剣速が速いが……」
「ああ! それなら理由は明白ですよ。私、普段は斧を片手で振ってるので、短剣ぐらいだと重さを、ほぼ感じないんですよね。だからでしょうね」
「斧を片手でかい?」
斧の重さ自体は、そう大したことではないかもしれないが、斧を振るスピードと木に当たった時の衝撃は、それなりのものだ。
「ええ、炭焼き用の木を切り倒すのに、わざわざ両手で斧を振るのが面倒で、片手で振ってたんですよ」
「面倒くさいからって、片手で木を切り倒せるもんかな?」
「最初は手首壊しましたね、あははは」
「笑って済ませられるもんではないだろう? 下手したら折れるよ? 手首」
と、常識外の答えに戸惑いを隠せない、リベアランス伯爵。
ルイスの手首は異様に強いようだ。
拳を握って内側に傾けると、手首に筋が浮かぶと思うが、現代の若者だと、一本か二本。古いタイプの人だと三本ほど浮かぶと思うが、ルイスは四本浮かぶ。
関係ないかもしれないが。
そんなわけで、ルイスの腕前が少しオカシイ事を、ウィンストン辺境伯やリベアランス伯爵が、確認した朝となった。




