リベアランス邸
ウィンストン辺境伯一行は、とある大きな屋敷に到着する。
「閣下、ここは?」
ルイスが尋ねると、
「パトリック、えっとリベアランス伯爵の屋敷だよ。王都に来た時は、いつもここの世話になっているんだ」
そう言ったウィンストン辺境伯。
ファーストネームでは分かりづらいと思ったのか、言い直したのだが、たぶんルイスは解ると思うのだが。
「なるほど」
と言いながら屋敷の中に通され、応接室に到着する。
「パトリックと仲良くなる以前は、宿を丸ごと貸し切りで借りていたのだが、面倒でね。護衛の面でも不安があったし」
結局ファーストネームで言ってしまう、ウィンストン辺境伯。
「丸ごとですか⁉︎」
とルイスが驚いたところで、
「やあ、待ってたよ。今夜も寝かさないよルイス君」
と登場するなり、そんなことを言うリベアランス伯爵。
「閣下お久しぶりです。それ、男が男に言うセリフじゃないですよね……知らない人が聞けば誤解されますよ?」
と以前会っているからか、冗談を言えるくらいには打ち解けているルイスが言うと、
「おっと、これは1本取られたね。まあ、とりあえず浴室で汗を流してくれたまえ。食事の後は一局頼むよ? なに、明日の認定式に寝不足の眼で出席するわけにはいかないだろうし、ほどほどにしておくから」
「本当に頼みますよ? 前回寝かしてくれなかったですもん」
ジットリした眼で、ルイスがリベアランス伯爵を見ると、
「あんなに強い君が悪いよ」
と笑うリベアランス伯爵。
「初心者相手に、負けるわけにはいかないでしょう? ワザと手抜きして負けるなんて、もっての外ですしね」
「そりゃそうだ。手抜きされて勝っても嬉しくない」
ウンウンと頷くリベアランス伯爵。
「そういや手紙にあったが、リディアちゃんが火水大戦にハマってるんだって?」
ウィンストン辺境伯が口を挟む。
リディアとは、リベアランス伯爵の娘である。
「ああ、魔物大戦もやるけど火水大戦のほうが好きらしい。娘が君の事を楽しみに待っていたから、火水大戦も頼むよ?」
「はぁ、がんばります……」
「あ、認定式は午前中に執り行うと、陛下から言われたから、10時には王城に登城するように」
「けっこう早いんですね」
ルイスがそう言うと、
「たぶんだけど、昼食会を兼ねた魔物大戦大会になるよ。魔物大戦好きの貴族達に、発案者の騎士認定式をするって自慢げに言って、広めていたから」
「マジっすか……」
小さく呟くルイス。
その後、汗を流したルイスは食堂に通され、リベアランス伯爵家の人々と交流を深めることになる。
噂のリディアという娘は、ゆるいウェーブのかかった赤毛で、茶色い瞳を持つ可愛らしい女の子であった。
少しオドオドした雰囲気を持つ、おとなしめの12歳のリディアは、話すのが苦手であるが、魔物大戦や火水大戦をしている時だけは、スムーズに話せるようになったため、リベアランス伯爵はこの件でルイスに感謝していた。
まあそんな感じでルイスは、日付が変わる直前まで、無数の盤の前を移動することになる。




