王都に向けて
そうしてルイスは、認定式用の服を仕立てたりと、忙しい日々を送り、そうして王都に出発する日を迎える事になる。
王都までは、馬車で10日もかかるらしい。
この世界の馬は、地球の馬とは比べ物にならないくらい早いのに、それでも10日もかかる。
ウィンストン辺境伯の領地は、辺境というだけあってまさに僻地であり、国の端に位置するため時間がかかるのだ。
急遽用意した上等な服を着込み、ルイスはウィンストン辺境伯と馬車に乗り出発する。
途中、色々な街を訪れ、ルイスはこの世界の現実を目の当たりにする。
ウィンストン辺境伯領は、治安が良いほうだったのだ。
街に溢れる職にあぶれた者達だらけの街や、人が少なく活気のない町、魔物に襲われ人の住まなくなった村。
この世界は人に厳しいと、改めて実感したルイス。
貴族も色々であり、貴族とは名ばかりの困窮した男爵なども居た。
領地に問題が出れば、それはその地を支配する貴族の収入に直結するのだ。
イスディニア王国の貴族は、民に不当な税を強いることが出来ない。
何故なら、イスディニア王国は税の上限が決まっている為であり、それを監視する王家の間者、つまりスパイが、商人のフリをして国中に居るからだ。
何故そのような者達がいるかというと、王家は一部貴族が不当に金を集めて、周りの貴族を買収するなりして、国の転覆を謀らせないために、色々動いているからだ。
ちゃんと報告して、真っ当に金儲けしている貴族にとやかく言うことはないが、貴族の金の流れを把握するというのは、王家として大事な仕事である。
さてルイス達は、もうすぐ王都到着するであろう、大きな街道を移動している途中、面倒くさい連中に絡まれることになった。
「閣下。前方に不審な馬車が2台、街道の脇に止まっています」
馬車の外から声がする。
ウィンストン辺境伯は、馬車の小窓を開けて、
「ふむ。ギース、お前の予想では?」
と馬に乗る護衛に聞いた。
「十中八九、野盗です。商人にしては身なりが悪いし痩せ過ぎです。それに、止まっている馬車の周りに人が多過ぎます。おそらく馬車の中にも居るでしょう」
ギースと呼ばれた護衛がそう言う。
「食うに困って野盗に落ちたか。ゆっくり馬車を止めろ。お前達だけで大丈夫だろうが、一応私も出るか。ルイスはどうする?」
とルイスに聞くウィンストン辺境伯に、
「騎士は、仕える貴族と国のために戦う者でしょう? 出ますよ」
と覚悟を決める。
「ルイスの腕を見るチャンスが来たか」
と笑うウィンストン辺境伯。
「普通ですよ?」
と肩をすくめてルイスが答える。
そうして、止まった馬車から、ウィンストン辺境伯とルイスが下りると、
「閣下、当たりです。馬車を止めたら近づいてきました。隠し持ってる武器が見えてますし、間違いないです」
ギースが手に持つ槍を、握り直してそう言う。
「ふん、馬鹿共めが。初手は奴らにくれてやれ」
ウィンストン辺境伯が命令すると、
「はっ! ではこちらはヤグラにでも構えてますか?」
と、冗談混じりにギースが言う。
ヤグラとは、将棋で王将を守るための囲い方の名だ。
ルイスはヤグラに囲う事が多かったので、ウィンストン辺境伯の屋敷で働く者は、ヤグラを選択する事が多い。
ルイスはもちろん他の囲い方も教えたのだが、強い者のマネをするのは、どの世界でも同じである。
「ギースも言うようになったな。盤上では私に勝てないのにな」
ウィンストン辺境伯が笑って言うと、
「閣下とセバスチャンが強すぎるんですよ」
とギースが溜息混じりに言う。
そして、
「来たぞ!」
と他の護衛の声がした。
槍や剣を構えて走ってくる者達。
数は30人ほどか。
だが、食うに困って痩せ細ろえた盗賊など、たった30人ではウィンストン辺境伯の護衛達の相手ではなかった。
護衛全てが騎兵のウィンストン辺境伯側に、文字通り蹴散らされ、槍に串刺しにされる野盗達。
まあ、ルイスも従士の証である短剣で、数人を倒して手伝いはしたのだが、戦闘はあっけなく終わるのだった。
そして、ようやく到着した王都は、賑やかな街であるが、兵士がかなりの数で巡回しているので、治安はそう良くはないのだろう。
まあ、日本も都会は治安が悪いので、似たようなものだ。




