知らせは突然に
その知らせは突然ルイスに告げられた。
それはいつも通り、ウィンストン辺境伯の屋敷に、炭を持って行ったとある日。
「閣下、おはよう御座います」
と、いつものようにウィンストン辺境伯の屋敷に入り、執務室のドアをノックし、入室したルイスが言うと、
「おはようルイス。今日は少し報告があるので、応接室に移動しよう」
とウィンストン辺境伯が言う。
そう言われたからには、応接室に移動しなければならないが、いつもはウィンストン辺境伯の執務室で、立ち話もソコソコに、酒を造っている酒造棟に行くのが普通だったのに、いったいどうしたのだろうと、疑問に思うルイス。
ウィンストン辺境伯の後ろを歩き、廊下を移動して応接室に入ると、ケビンがルイスに、
「おはようルイス」
と声をかけてきたので、
「ケビン様、おはようございます」
と頭を下げてルイスが言い、頭を上げた時に、見知らぬ人物がソファに座っていることに気がついた。
その人物に、ルイスは頭を深々と下げて、
「ウィンストン辺境伯家の従士、ルイスと申します」
と挨拶すると、
「うむ。リベアランスだ」
と、名前だけを告げられる。
「ルイス、とりあえずそこに座れ。ケビンも適当に座れ」
何やらただならぬ雰囲気に、ルイスは、
「酒が何か不調なのですか?」
と尋ねた。
自分の考えた酒が、問題になっているのかと危惧したのだ。
「いや、酒は順調だよ」
と笑うウィンストン辺境伯。
そこにセバスチャンが入室してきて、
「閣下、書類をお持ちしました」
と、大事そうに抱えた書類を、ウィンストン辺境伯に渡す。
「うむ。ではセバスチャンも同席してくれ」
「はっ!」
「では、ルイスよ。チェリオット・スターク・イスディニア陛下よりの御言葉を、ここにいるリベアランス殿が代読される」
と、ウィンストン辺境伯がルイスを見つめてそう言った。
コレを聞き、ルイスは椅子から立ち上がり、床に片膝を突く。
前世の社会人としての記憶もあるため、国王の言葉を、ソファに座ったまま聞いて良いものでは無いことぐらい、ルイスは理解している。
リベアランスがソファから立ち上がり、上着の内側から一枚の書状を取り出すと、膝を突いたルイスの前に移動して、
「では、読み上げる。『ウィンストン辺境伯家の従士ルイスを、チェリオット・スターク・イスディニアはその名において騎士爵とする事を認める。1ヶ月後、王城にて認定するので、ウィンストン辺境伯と共に、出向くように』陛下からの御言葉は以上だ」
その言葉は静かに、述べられた。
「陛下の御言葉、承りました。私、ルイスは1ヶ月後、王城にウィンストン辺境伯閣下と共に出頭致します」
ルイスの頭の中は大混乱であったが、どうにか言葉を取り繕って応じた。
その様子を見届けたリベアランスは、
「うむ! ではそのように」
と言って、書状をウィンストン辺境伯に渡してから、ソファに座る。
「リベアランス殿、お疲れ様でした」
と、セバスチャンがリベアランスの前に、スッとティーカップを置き、ポットからお茶を注ぐ。
どこにティーセットを隠していたのだ、セバスチャン。
「なに、友人の家の新たな騎士認定だし、あの魔物大戦の発案者だろう? 直接発案者と魔物大戦が出来ると思ってな」
ティーカップを手に取り、香りを堪能しながらリベアランスが言う。
魔物大戦の話題が出ると、ウィンストン辺境伯が、
「強いぞ? 私なんかよりも」
と少し笑みを浮かべるウィンストン辺境伯。
「昨日はかなり負けたからなぁ」
「発案者ルイスの弟子として、不甲斐無い魔物大戦は指せんからな」
いったいいつウィンストン辺境伯が、ルイスの弟子になったのか、ルイス自身は身に覚えがないが、ここで何か言うのは野暮というものだと思い、ルイスは別の事を尋ねる。
「リベアランス様は、閣下のご友人なのですか?」
「ジョセフとは、20年来の友人なのだよ」
辺境伯であるウィンストンを、ファーストネームで呼ぶリベアランス。
「陛下の即位式のおりに、とある貴族が反乱を起こしてな。一緒にそ奴を取り押さえてから、仲良くなってな。まあ、それ以前から同じ貴族だし知り合いではあったがな。ちゃんと紹介しておこう。パトリック・アレク・リベアランス伯爵だ。王都にて国軍の指揮官を任されている武闘派さ」
そうリベアランスをルイスに紹介した、ウィンストン辺境伯。
リベアランス伯爵ということは、爵位で言えば辺境伯の方が上であるが、気軽に呼び捨てできるくらいの友人ということなのだろう。
「伯爵閣下であられましたか」
と、ルイスは膝を突いたままの体勢で、さらに頭を下げる。
「ああ、そんなに畏まらなくていいよ。それより魔物大戦をやろうじゃないか! それ目当てで陛下に今回の伝達の任務を、私に回してくれと懇願したんだから」
ルイスと魔物大戦をやりたいばかりに、王にワガママを言ったという事は、言えるだけの信頼を王から得ているということであろう。
まあそんな訳で、リベアランス、ウィンストン両当主に、セバスチャン、ケビン、サラを相手に練習対局をする事になるルイス。
ルイスはこの日も眠れない事になった。




