へんたい
ウィンストン辺境伯の屋敷の朝は、それなりに早い。
夜明け前にはメイド達や使用人は起きて、雇い主であるウィンストン辺境伯達の朝食の準備に入る。
食堂のテーブルを拭き、床を掃除するメイド達や、朝食の準備をする料理人。
昨夜リバーシで寝不足だったとしても、それは変わらない。
リバーシは今、屋敷の使用人達で大流行である。
「サラフィス様、おはようございます。朝食の準備が整いました」
サラの部屋のドアの外から、メイドが声をかけている。
年頃の女性の部屋に、ズカズカ入るようなメイドは、この屋敷には居ない。
さて、メイドの声に起こされて、むにゃむにゃとサラが目を覚まと、
「起きたわ。着替えて行くから」
ドアの外のメイドに、そう声をかけておくと、メイドはサラの部屋の前から立ち去る。
サラは毎朝起きると、決まってする事がある。
いや、以前は無かったのだが、少し前から毎日欠かさずしているのだ。
枕元に置いてある木箱を開けるサラ。
豪華な木箱に収納された、一枚の男性用の下着。
サラは、それを手に取る。
それは、ルイスから借りパクしている、ルイスの下着であった。
そのルイスの下着に頬擦りするのだ。
それも恍惚の表情で!
断言しよう、完全に変態である。
もう変態の沼にドップリだ!
至福の時間を終えたサラは、着替えを終えて部屋を出る。
食堂に当主であるウィンストン辺境伯と、アリアナにケビンが着席している。
すぐに娘のサラも来た。
「お父様、おはよう御座います」
「ああ、おはよう」
「お母様、お兄様、おはようございます」
「おはよう」
「おはよう」
母と兄にも挨拶をして着席したサラは、
「お父様、最近忙しそうですね」
と話しかける。
「色々打ち合わせがあってな」
「ショーギの件ですか?」
「ショーギとリバーシの件だな」
「試作品は完成しているのですか?」
「石職人が、今日持って来る事になっている」
「私も見て良いですか?」
「かまわんよ。どんな出来栄えになっているか楽しみだ」
「使い心地も試してみませんとね」
「そうだな」
「リバーシも石造りなのですか?」
「リバーシは残念ながら木製だ。表裏に色を着けるのに、石は適さないのでな」
「なるほど。火の赤と、水の青を塗らないといけませんものね」
そう言ったサラ。
この世界のリバーシは、白と黒では無い。
火の赤と水の青になったのだ。
元々ルイスが簡単に作ったものは、木の地肌と、炭を擦り付けた黒であった。
だが、貴族用としては火と水の戦いという事にして、赤と青に塗られる事になったのだ。
高価な染料を使うことで、高級感を出して、値段を高く設定するためだ。
庶民用は木の地肌と黒で行く予定だ。
将棋のほうも、庶民用は木製である。
「早く職人来ないかなぁ」
サラが楽しみそうに言いながら、パンを頬張るのだった。




