やはり
「さてルイスよ、私もショーギをしたいところだが、まずは色々相談だ。とりあえず酒の話からしようか。セバスチャン」
ウィンストン辺境伯がそう言い、セバスチャンを呼ぶと、
「はっ!」
と返事して、スッと二人の前に現れるセバスチャン。
いったいどこに隠れていたのだろうか。
セバスチャンは一枚の紙を、ウィンストン辺境伯に差し出し、それを受け取ったウィンストン辺境伯は、ルイスに手渡す。
「コレは、酒を作るのに必要だと思って揃えた物の目録だ。他に必要な物があるなら言ってくれ」
そう言い添えて。
「拝見します……この間、味をみて貰ったリンゴのやつで良いなら、この目録にあるやつだけで大丈夫です」
目を通したルイスが言うと、
「ほ、他にも案があるのか?」
少し前のめりになるウィンストン辺境伯。
「果実酒ならば、色々作れると思います。後は別の穀物や芋からも作れると思いますが、それは試してからかと」
「芋?」
「はい、芋です」
「とりあえず、まずリンゴの酒からでいいので、教えてくれ。次に、ショーギなんだけど、ウチから売り出してもいいかい? ちゃんと対価を払うから」
本題はこちらだろう。
「あれ、売れますか?」
と聞いたルイスに、
「確実に売れる!」
と自信たっぷりのウィンストン辺境伯。
少し思案したルイスは、
「では、閣下にお任せいたします。私には販売能力が無いので」
と頭を下げて答える。
「快諾してくれて助かるよ。貴族用の高価なやつとかを作ろうと思っているんだよ」
「ならば、駒もちゃんとした形で作った方が良いですね。丸だとイマイチかっこよく無いでしょう?」
そう、ルイスが作った駒は2、3センチ程度の枝を輪切りにしただけの、簡素なモノだった。
「ちゃんとした形?」
と疑問を露わにするウィンストン辺境伯に、
「紙とペンをお借りしてもよろしいでしょうか?」
とルイスが言うと、
「もちろんだとも」
と言ったウィンストン辺境伯の言葉と同時に、セバスチャンからスッと紙とペンが、ルイスに差し出される。
いったいどこに隠し持っていたのか。
受け取ったルイスは、サラサラと図を描き、
「えっと、こういう形に駒を作れば、どちらが自分の駒かわかりやすくなります。今のだと文字でしか判断できないでしょう? それに駒の厚みを変えれば、オーガはオーガらしくなると思います。オーガとゴブリンが同じ大きさのわけが無いですしね。少し大きめにしたりとかしても良いですね」
と説明した。
「な、なるほど……その案は採用決定だ!」
「良かったです」
と微笑んだルイス。
「他に何か面白い遊びはないかな? 小さな子供にはショーギは難しいだろう?」
ウィンストン辺境伯がそう言うと、セバスチャンの眼が少し大きく開かれる。
今それを聞くのかと言いたげである。
「うーん、簡単なやつですか……となるとリバーシかな?」
「りばーし?」
「同じく盤上で遊ぶ、陣取り合戦です」
とルイスが軽く言うと、
「せ、説明してもらえるかな?」
さらに前のめりになるウィンストン辺境伯。
「言葉で言うより、作ってみましょうか?」
と言ったルイスに、
「「頼む!」」
ウィンストン辺境伯だけでなく、とセバスチャンも声を出した。
余計な提案をしたばかりに、ルイスはこの日、家に帰ることは出来なかったのであった。
本人曰く、「ツイてない」とのことだが、自分が悪いのだ。