眠たい
ひたすら将棋を指すルイス。
「閣下、もう夕方ですけど?」
ルイスがそう聞いてみると、
「勝つまで帰らん!」
と言われ、
「セバスチャンさん、大丈夫なんですか?」
と、セバスチャンに助け舟を期待したのだが、
「私も勝つまで帰りませんよ?」
と言われてしまい、ケビンを見て、
「ええっ⁉︎ ケビン様?」
と助けを求めてみたが、
「諦めろ。父上はああなったら意地でも止めないぞ」
と言われてしまったルイス。
そして深夜。
「眠たい……寝かせてくれぇ……」
ルイスの呟きを誰も聞いてくれなかった。
結局、眠たさには勝てず、朦朧とした意識で指していたルイスのミスにより、ウィンストン辺境伯と、家令のセバスチャンがようやく、ワイバーンと地竜落ち(いわゆる将棋の飛車角落ち)でだが勝利し、翌日の早朝帰っていったのだった。
その日、ルイスは気絶するようにベッドに倒れ、泥のように眠る事になった。
「ルイスの考えたショーギだが、売れると思わんか?」
と言ったのはもちろんウィンストン辺境伯。
ルイスの小屋から帰った翌日の事だ。
「確実に売れます!」
と返したのはセバスチャン。
「私の直営商店で、売りに出そうと思うのだが」
「貴族用に、石造りの高級なやつを作りましょう!」
「うむ! 良い案だ! ルイスには発案料として、売上の一割をやろうと思う」
ウィンストン辺境伯の提案に、
「一割もですか?」
と疑問を呈したセバスチャンだが、
「ちゃんと対価を払えば、また何か考えて作ってくれるやもしらんぞ?」
「払いましょう!」
と食い気味でセバスチャンが賛成した。
「街に行くのが憂鬱だ……また将棋させられそうだ……」
リヤカーを引くルイスの足取りが重い。
この日は、ウィンストン辺境伯の屋敷に出向くと約束した日だ。
ウィンストン辺境伯の屋敷に到着したルイスは、門番に短剣を見せ、
「従士待遇のルイスです。閣下のお呼びにより参上致しました」
と、告げると、
「あんたがルイスか! ショーギの発案者の!」
と、握手を求められる。
屋敷に通され、応接室で茶を飲んで待っていると、慌ただしい足音と共に、サラが将棋を抱えて飛び込んできた。
「ルイス! 勝負よ!」
将棋盤を左手に抱え、右手でルイスを指さして宣言するサラは、可愛いと言えば可愛いが、どこかあざとさが透けて見える。
「サラちゃん……目が血走ってて怖いんだけど?」
「昨日寝てないからね!」
「いやちゃんと寝ようよ。睡眠不足はお肌の大敵だよ? せっかく綺麗なのに……」
「うっ! 心理戦とは狡いわよ! とりあえず勝負よ!」
「はいはい」
てな事で、将棋が始まるのだが、
「お、けっこう強くなってる!」
「ふふん! 侍女達を巻き込んで練習しまくったからね!」
「でも、まだまだだよ。はいオー手(駒が王将ではなく、オーガなのでオー手と呼ぶことにしている)」
「ああっ! 逃げないと!」
「そっちに逃げると、そこのワイバーンに火炎を撃たれるよ?」
「じゃあこっちに!」
「そこは地竜が突っ込んで来るよ?」
「逃げるところが無いじゃないの!」
「うん、詰みって言うんだけどね」
「もう一回よ!」
とサラが言った時、
「サラ、悪いけどルイスとお仕事の話をさせてくれんか?」
ウィンストン辺境伯が口を挟む。
「お父様、いつからそこに?」
と驚くサラだが、
「将棋が始まってすぐに来られてたよ?」
とルイスが言うと、
「気がつかなかったわ」
「集中してたもんね」
「お仕事なら仕方ないわ。終わったらまたやろうね!」
聞き分けは良いサラである。
将棋盤を抱えてサラが席を立ちながら、ルイスにウインクする。
「うんいいよ」
ルイスは微笑んで答えたのだった。




