それほど?
そうして始まる将棋大会。
「また負けたぁ!」
サラが悔しそうに言うと、
「そりゃ、覚えたてのサラちゃんに負けるわけにはいかないからね!」
と笑うルイス。
「ルイスが強すぎるのよ!」
ぷんぷんと言いながら怒るサラ。
「さて、俺は昼食の準備をするから、護衛の人達とやってみて。覚えたて同士だし、いい勝負ができるかもよ?」
そう言って席を立つルイス。
「早く作って戻ってきてよ? ちょっと貴方、相手して!」
「は!」
と、護衛の一人がサラの前に座る。
そうして昼食休憩を挟みつつ、将棋大会は夕方まで続く。
「結局、ルイスに一度も勝てなかったわ」
サラが悔しそうに言うと、
「護衛の人には勝てたんでしょ?」
と尋ねたルイスに、
「勝ったり負けたりだったわ」
サラが言う。
「来週はそっちに行くから、またやろう」
「練習してルイスに勝つんだからね!」
サラの眼が本気である。
「我らにもお土産を頂いて、よろしかったのですか?」
護衛達が申し訳なさそうに言うと、ルイスは笑顔で、
「パパッと作ったやつで申し訳ないけど、気に入ってもらえたようなんで。護衛仲間さん達と、楽しんでください」
と答えた。
「感謝する」
と護衛達が頭を下げる。
「じゃあまた来週! 気をつけて帰ってね!」
と、送り出したルイスだったが、翌日まさかウィンストン辺境伯が、護衛20人も連れてやって来るとは、この時は微塵も思っていなかった。
「えっと、閣下?」
戸惑うルイスに、
「早くやろう!」
と顔を近づけるウィンストン辺境伯。
「そんなに気に入ったので?」
「昨日、サラや護衛達と、散々やったのだ! だが、みんな弱いんだよ! サラがルイスは強いと言っていたから、どうしてもやりたくなったのだ!」
帰ってきたサラが、お土産としてルイスに持たされた将棋セットを自慢げに見せ、父親相手に無双してやろうと思ったら、逆に返り討ちにあったのだが、将棋の面白さを噛み締めたウィンストン辺境伯は、その後護衛達を巻き込み、将棋大会に発展した。
「ケビン様や、家令のセバスチャンさんまで連れて来るほどの事ですか?」
そう、サラの兄ケビンや、セバスチャンも巻き込まれていた。
「私も閣下と同じく、護衛共には負け知らずです。閣下とは五分の勝率です」
セバスチャンもハマったらしい。
「俺は父上に負け続けだ」
ケビンは完全に被害者だろう。
いったい昨夜、どれだけ将棋を指したのか、怖くなったルイス。
ここに来た者全員の目が血走っているのだ。おそらく寝てないと思われる。
「はぁ、まあいいですけど。とりあえず人数分の将棋を作りましょうか?」
と言ったルイスに、
「「「「お願いします」」」」
護衛達に頭を下げられる。
護衛達の将棋セットは、すでにウィンストン辺境伯とセバスチャンに取り上げられていた。可哀想。
「今日は料理番も連れてきたから、ルイスは食事を作らなくてもいいから、将棋の相手を!」
気合の入り方が怖い。
「ちょっと怖い……そういやサラちゃんは?」
「家で特訓すると言ってたよ。どうせ今日来ても負けるだけだからと」
ケビンがそう言う。
「なるほど」
少し納得して、人数分の将棋セットを作ったルイスは、全員を相手に将棋を指すことになる。
プロ棋士と将棋ファンの練習対局のように。




