待遇から
屋敷に戻ったウィンストン辺境伯は、
「ルイスを従士待遇から従士に変更しろ。給金も出せ。預かっている金に上乗せしていけ」
と、家令のセバスチャンに指示する。
「何故それほどまでに?」
セバスチャンの疑問は、同然の反応だろう。
ウィンストン辺境伯が、小さな壺からカップへと柄杓で液体を移し、
「この酒飲んでみろ」
と、セバスチャンに差し出す。
それを受け取り一口飲んだセバスチャンは、目を見開いて、
「美味い!」
と声を漏らす。
「だろう? 売れると思わんか?」
「確実に売れます!」
「ルイスが作った酒だ。二週間後、ルイスが来る時に作り方を伝授すると、確約を貰ってある。我がウィンストン辺境伯家の武器になるだろう?」
「さすが閣下。これならば王家にも献上できます!」
「我が領は特産品がリンゴしか無かったからな。広さだけは一番と言われていたが、資金面ではそれほどでは無かったが、巻き返せるかもしれん。使っているのがリンゴで良かった」
ウィンストン辺境伯が言う。
ルイスがリンゴを使ったのは、ウィンストン辺境伯領での果実の中では、流通量が多くて安かったからであり、必然とも言える。
「準備しておきたいのですが、何か必要なものがごさいますか?」
「見たところ、瓶にエールとリンゴを入れて作っておったな」
「では、二週間後にはある程度数を揃えておきます!」
「任せたぞ!」
「は!」
と、話がまとまるのだった。
そして一週間後、サラが馬に乗ってルイスの小屋へとやって来る。
護衛は6人。
「ルイス来たよ!」
と笑顔のサラ。
「いらっしゃいサラちゃん。護衛の方達もご苦労様です。厩舎もどきを作ってありますので、馬はそちらに。あと、まだ途中ですが小屋も作ってますので、休憩されるならそちらでどうぞ。あの大きめの小屋がそうです」
と説明したルイスに、
「まだ一週間しかたってないのに、もうあんなものまで作ったのかい?」
と驚く護衛達。
「暇だけはあるもんで」
そう笑って答えたルイス。
「ルイス、今日は何する?」
と聞いて来たサラに、
「サラちゃんのために、ゲームを作ったよ?」
「げーむって何?」
「遊戯って言えば分かる?」
「ゆうぎ?」
全く分からないという感じのサラに、
「コレだよ」
と実物を見せるルイス。
「何コレ?」
「将棋っていうんだ」
「しょうぎ?」
首をコクンと傾け、尋ねるサラ。
非常に可愛い仕草だが、狙ってやっているので、悪女である。
「遊び方を教えるね!」
そう言ってルイスが説明するのを、サラ達は興味深げに聞くのだった。
王はオーガ、金はオーク、銀はレッドベア、桂馬はロックウルフ、香車は一角兎、角は地竜、飛車はワイバーン、歩はゴブリンと書き換えられてはいるが、紛れもなく将棋である。
ワイバーンの裏には翼竜、地竜の裏にはアースドラゴンと書かれているし、ゴブリンや他の駒の裏には、オークと書かれている。
説明を書き終えたサラや護衛達は、激しく食いついた。
この世界は娯楽が乏しいのだ。
夜は酒ぐらいしか楽しみがないのだ。
慌ててルイスはもう1組、護衛達のために将棋セットを作る事になった。




