鼻歌
「湯加減どうですかぁ?」
カマドのある土間で、ルイスが大きな声で聞く。
風呂用のカマドも、ここに有るのだ。
「ちょうどいいよ」
浴室からの声の主は、ウィンストン辺境伯だ。鼻歌がかすかに聞こえるので、上機嫌なのは間違いない。
「それは良かったです」
そうルイスが言う。
風呂から上がったウィンストン辺境伯が、
「風呂桶は小さいが、それはそれで気分が良いね。収まってる感じが心地良かったよ」
と言いながら、ルイスの横に椅子を置いて座る。
ルイスがサラを覗き見しないか、監視する為だ。
もちろんルイスはのぞき趣味など無いが。
「ありがとうございます」
と述べてから、カマドに小さな木片を放り込むルイス。
浴室からサラの鼻歌が聞こえる。
曲が父親と同じなのが面白い。
そうして、サラも風呂から上がり、隣の小屋へと移動したウィンストン父娘。
「では、おやすみなさいませ」
ルイスが頭を下げると、
「ああ、おやすみ」
「ルイスおやすみ〜」
と応じた二人を小屋に残し、
「護衛の方達、壁のない所ですいません」
と、護衛の兵士達に頭を下げる。
「いや、朝露がしのげるだけありがたいよ」
護衛兵がそう言う。
薪などを乾燥させるための、屋根だけの建物の下から、木材を除けて、木の板を引いただけの場所で、座ったり寝転んでくつろいでいる護衛達は、気にするなとルイスに言うのだった。
「次に来られる事があるなら、なんか作っておきますので」
そう言うと、
「閣下のあのご様子だと、作って貰えるとありがたいかな」
護衛達も、度々来ることになるだろうと予想していた。
「了解であります!」
そうして、ルイスは小屋に戻り、風呂で汗を流した後、ベッドに潜り込み、
「ふぅ。楽しいけど、疲れたな……」
と言葉を漏らしてから、眠りにつくのだった。
翌朝、ルイスは早めに起きて、朝食の準備に取り掛かる。
朝食は、パンモドキと、昨夜から煮込んでいた内臓のスープであった。
シカの内臓など食べたことのなかった、ウィンストン辺境伯やサラに、なかなか好評であった。
「では、二週間に一度は街に行くので、その時は必ず顔を出しますので」
ルイスがそう言うと、
「うむ! 後、うちに売る分の炭も頼むな」
「は!」
「じゃあルイスまた来週!」
サラがルイスに言う。
「本当に来るの? 何にもないよここ?」
そう言ったルイスだったが、
「ルイスが居るもん!」
そう笑顔で言われては、ルイスは断る術を知らない。
一行を見送り、後片付けに取り掛かるルイスであった。




