小屋に貴族が
「ルイスよ! 二週間ぶりだな!」
馬上から話すウィンストン辺境伯に、
「はい、ウィンストン閣下。こんな辺鄙な所にようこそ。如何なされました?」
頭を下げてから、素直に聞いてみるルイス。
「サラが、ルイスに会いたいとうるさくてな。それにルイスが、どのような生活をしているのかも興味があったのと、使用人達が炭が欲しいと言ってきたのでな」
そう答えられ、
「普通の生活ですが。あと炭ですか?」
「うむ。先日ルイスから買い取った炭を、使用人達に分け与えたのだが、あの炭を使ったら他の炭なんかもう使えないと言われてな」
ルイスが作っていたのは、ただの炭ではない。備長炭だ。火力が強く持ちも良いのだ。
「それはありがたいお言葉です。何もない所でございますが、オモテナシさせて頂きたいです。今朝、鹿が獲れましたので、護衛の方達もご一緒に、遅めの昼食などいかがでしょう?」
そう提案したルイスに、
「おう! では馳走になるとしよう!」
と笑顔を見せたウィンストン辺境伯。
「では、こちらへ。馬はその辺の木にでも繋いで貰うしかないですが。食事の準備しますので、生活風景のほうはどこでも見てもらって構いませんので。サラちゃん、あ、サラ様、間取りが分かっているでしょうから、閣下を案内して頂いてもよろしいですか?」
と、サラに声をかけたルイスに、
「ルイス! 何でそんな喋り方なのよ!」
怒り出すサラ。
「いや、一応従士待遇だし、閣下の娘さんだから」
言い訳するルイスだったが、
「今まで通りに呼びなさいよ! あと私に敬語は厳禁よ!」
と言われ、
「ええ?」
と戸惑いながら、ウィンストン辺境伯の顔色を伺うルイスに、
「ルイスよ、サラの言うとおりにして構わないよ」
そう言うウィンストン辺境伯。なんとも懐の深い御仁である。
「閣下がそう仰るのならば。じゃあサラちゃんよろしくね」
口調をいつも通りに戻して、ルイスがサラにお願いする。
「うん!」
頷いたサラは、嬉しそうに案内を始める。
「えっと、護衛の方も座るとなると椅子が全く足りないか……作っちゃえ」
そう言って丸太を適当な長さに切っていくルイス。
一方サラの案内で、小屋の中に足を踏み入れたウィンストン辺境伯は、驚きを隠せないでいた。一緒に入った護衛達もだ。
小屋の中は狭い。
だが、そこにある物は山の中の小屋に有るには、不自然な物ばかり。
十字型の木片を捻ると管から出る水。
絶えず水の流れているトイレ。
そして小さいが、れっきとした風呂釜。
ここで一泊二日したサラが、自分のことのように自慢しているが、ウィンストン辺境伯がベッドが一つしかない事に気がつく。
「サラ、お父さんに正直に話しなさい。この小屋にはベッドが一つしかないが、もしや……」
ウィンストン辺境伯の顔に、少し戸惑いが感じられる。
「お父様、私が寝たのは隣の小屋よ?」
「隣?」
「ルイスは隣の小屋を、冒険者って人達に宿として貸してるのよ。そっちも見に行く?」
サラはわざと隣の小屋で一緒に寝た事は、話さない。
この言い方なら、別の小屋で寝たと思うだろうと考えての発言だ。
なかなか計算高い。
「もちろんだ」
少し安心したように、ウィンストン辺境伯が答えた。
「ふむ、こっちは山小屋っぽいな」
「ルイスが住んでる方の小屋は、ルイスのご両親が他界されてから、こっちで暮らすと両親を思い出すからって、ルイス一人で建てたんですって。器用よね」
「両親の死を吹っ切るためか……うん? なんか良い匂いがしてきたな?」
外から良い匂いが漂ってきていたのだ。
「閣下! そろそろ昼食に致しましょう」
ルイスがそう言って皆を呼びに来た。
「ルイス、もう出来たのか?」
尋ねたウィンストン辺境伯に、
「出来たてホヤホヤを食べて頂きたいのです」
「なるほど、では食卓に向かうとするか」
そう言って、小屋から出たウィンストン辺境伯達だった。




