ルイス少年
ディトロナクス少佐が、少年の時代に遡る。
少年の住む国、国名をイスディニア王国という。
大陸の東に位置する、大国である。
幾多の戦争を勝ち抜き、数年前に現在の大国になったが、歴史はそれなりに古く、現王朝には約500年の歴史がある。
当代の王の名は、チェリオット・スターク・イスディニアである。
広大な農地を抱える豊かな国であったので、周辺諸国はその農地を狙って戦を仕掛けてきたのだが、ことごとく返り討ちにして、その国を飲み込み大国へと至る。
少年はその国、イスディニア王国の端にある辺境伯領の山に、たった一人で暮らしていた。
近くの街まで、徒歩で2時間くらいの場所だ。
名はルイス。歳は15になる。平民なので家名は無い。
少年とは言ったが、この世界では成人とみなされる年齢ではある。
両親が他界してから既に3年、ずっと一人で山暮らしだ。
お世辞にもカッコいいとは言えない顔。
普通の15歳の体型。身長は160センチほどだろうか。茶色の頭髪は伸び放題だが、邪魔にならないように後ろで一纏めに括られている。
男のポニーテールなど誰得だろうか。
細く釣り上がった一重の目から、茶色の瞳が僅かに見える。
年々、頭髪や瞳が黒に近づいている感じがすると、ルイスは思っているし、実際、歳を重ねるごとに、黒く変化していた。
そもそもルイスは、この世界では特異な存在である。なぜなら、前世の記憶があるからだ。
ルイスは、前世で地球という星の日本という国で生きていた。
前世では30歳でブラック企業を脱サラし、貯めた預金で田舎の過疎地の古い家を、山付き炭焼き小屋付きで買って住み着き、炭焼き小屋で炭を作り、インターネットで売り、狩猟期間では猪や鹿を捕獲して金を稼いでいた。ジビエ料理の流行により、それなりの生活が出来ていた。
まあ、ど田舎の山奥に、嫁に来てくれる稀有な女性は存在しなかったし、モテる顔でもないし、金持ちなわけでもなかったから、独身なのは仕方ないのかもしれないが、趣味の将棋をインターネットで指し、たまに街に出かけては、酒を買い込んで自分でカクテルを作って飲む。それなりに楽しい生活であった。
村に若い者など皆無で、居るのは年寄りばかりだったが、年寄り達には貴重な若手として、村八分にされる事なく迎え入れられていた。
良い言い方をすればスローライフ。
悪い言い方をすれば、その日暮らしと言えるかもしれない。
そんな生活を10年過ごしたある日、吐血して倒れた。
意識が朦朧とするなか、
「俺は死ぬのか? もっと生きたかったなぁ……」
そう思いながら意識を無くしたのだが、気がつくと、泣いて喚いている自分に気がつく。
見たこともない男女が、自分を覗き込むようにしながら、聞いたこともない言語で話しかけて来る。
まあ、その男女が両親だと気がつくのに、それほど時間を要しなかったが。
自分を「ルイス」と呼ぶ2人に、愛情たっぷりに育てられ、貧しいながらも幸せに暮らしていたのだが、ある日、ルイスが12歳の時、街に買い出しに行った両親が、いつまで経っても帰ってこなかった。
翌日、街の衛兵が、両親の亡骸を荷車に乗せて、ルイスのもとにやってくる。
街から出たところを、盗賊に襲われたのだとか。
たまたま通りかかった者が、盗賊達を撃退したのだが、時既に遅し。
致命傷を負った二人は助からなかった。
突然ルイスは、一人で生きていく事になったわけだ。
3話目を15時頃に投稿します。