訪問
「うひょう! フカフカベッドだぁ!」
などと、ルイスが浮かれていた頃、ウィンストン辺境伯の執務室では、
「閣下、よろしいので?」
セバスチャンが問いかけると、
「かまわん。礼儀も平民にしては悪くないし、人柄も良さそうだし、サラの恩人だ。彼への謝礼金を預かる事で恩を返せるなら、こちらに何の出費も問題も無いし、従士といっても待遇という扱いだし、給金を払うわけでもないからな」
そう答えたウィンストン辺境伯。
「従士の身分は、その子供にも引き継がれますが?」
「あくまであの子、ルイスを従士待遇にするだけだ。ルイスの子供が優秀なら、従士にしてやってもかまわんがな」
「では、そのように進めてまいります」
「ああ、頼んだ」
と、ルイスの身分について話し合いが行われ、従士待遇の中身が決められたのだった。
翌朝、ウィンストン辺境伯の屋敷を後にするルイス。
その腰には、ウィンストン辺境伯家の家紋の刻印のある短剣があった。
「これは我が家の従士の証だ。持っていなさい」
と言って、ウィンストン辺境伯から渡されたものだ。
ウィンストン辺境伯家で働く者達の多くが、携帯している短剣である。
いざとなれば戦える者達が、手渡されるのだ。
「昨日はツイてない一日だったけど、炭と毛皮を高値で買ってもらえたし、結果オーライだな。良い小麦粉を買って帰ろうかな」
貴族は炭や毛皮の卸値など知らない。購入する金額は分かるので、その金額をルイスに渡したのだ。それも少し多めに。
ルイスは、笑顔でそう言い、リヤカーを引いて商店に向けて歩くのだった。
ルイスがサラを助けてから、二週間が過ぎた。
ルイスの生活は一変……していない。
何も変わっていない。いや、小麦粉が上質のものに変わりはしたし、胡椒という高級品も手に入れはした。
今日も朝から仕掛けた罠を見て回る。
今日は運良く、罠に足を取られた鹿がいた。
ルイスは罠の縄を緩めて、吊るされている鹿を地面近くまで下げると、そこで縄を緩めるのをとめ、暴れる鹿の首目掛けて、斧を振る。
不安定な鹿の首にもかかわらず、首が半分ほど切れると、大量の血液が流れ出る。
ルイスは血抜きをしているのだ。
この作業をしないと、肉が血生臭くなるのだ。
血抜きの間に、ルイスは小屋には戻って、リアカーを引いて戻ってくると、血抜きの終わった鹿を、荷台に乗せる。
小屋まで運ぶと、さっそく解体に取り掛かる。
毛皮を剥ぎ取り、食べられない内臓を取り除き、四本の脚を外したところで、遠くに声が聞こえたような気がして、振り返る。
「……イス〜! ルイス〜!」
馬の上で手を振る少女。
「サラちゃん⁉︎」
そこには、10人程の護衛を引き連れ、馬に乗ったサラの姿があった。
その横には、父親であるジョセフ・ウィル・ウィンストン辺境伯の姿まで見えたのだった。




