話
「まず、君の落ち着き具合についてだ。人を殺したのに動じていないように見えるが、以前にも人を殺した事があるのかね?」
それは少し詮索するような目付きであった。
人は、特に平民は初めて人を殺した後というのは、気が動転しているものである。
たとえ前日だったとしても、ルイスの落ち着き具合が、ウィンストン辺境伯には納得出来なかったのだ。
「盗賊に何度か襲われて、その時に何人か。ちゃんと衛兵にも連絡しておりますので、なんならお調べになってください」
と、平然とした表情で、ルイスは答える。
あんな小屋で一人暮らしなので、ごく稀に生活に困った冒険者が、盗賊になってルイスを襲う事があった。
まあ、生活に困る程度の腕しかない冒険者ぐらいなら、ルイスの腕で撃退する事は容易かったのだが、たまに勢い余って殺してしまった事もあったのだ。
「ふむ。疑ってすまないね。殺したのが盗賊ならば問題無いよ」
納得したのか、ウィンストン辺境伯の表情が柔らかくなる。
「いえ、大事な事だと思いますので」
「で、話は変わるが御礼の件なんだけど、奴らに懸賞金をかけていてね。それを勿論君に払うつもりなんだが、他に何か欲しいものとかないかね?」
と言われてルイスは、
「お金を頂けるんですか? 人として当然のことをしただけですけど? 御礼とか、この豪華な食事で充分ですが?」
そう答えたのだが、
「サラの恩人に、金と食事だけでは、我がウィンストン辺境伯家の面子が立たないよ」
そう、貴族とは面子を重んじる生き物である。
「と言われましても、お金をいただける上に、他と言われても……」
考え込むルイスを見て、サラが口を挟む。
「お父様、ルイスが貰う金額って?」
「一人につき、金貨10枚だ」
金貨10枚あれば、街に小さな家を持てる。
「そんなに頂いていいんですか!」
驚いたルイス。
一人につき金貨10枚。ルイスが確認したのは四人だが、実際は5人なので、金貨50枚である。
「かまわんよ。正当な金額だよ」
「えっと、あの小屋に金貨を置いて置くのが怖いので、預かって貰えないでしょうか? それが欲しいものの代わりになりませんか?」
そう提案した。金貨50枚もの大金を小屋に置いておくのは、流石に不安だろう。
「確かに誰でも入れるものね、あの小屋。ねえ、お父様。ルイスをウチの従士待遇にするというのはどう? ルイスを襲うということは、ウィンストン辺境伯所縁の者を襲うのと同義だとすれば、ルイスの身の安全に、多少なりとも役に立つと思うの」
小屋の不用心さを知っているサラは、それを肯定しつつ、従士にと提案した。
従士というのは、貴族の家に仕える者の事で、貴族の身内のような扱いになる。
家令のセバスチャンも、従士である。
ついでに言うと、従士は結婚するのに許可が必要になる。
勝手にその辺の町娘と結婚出来なくなる。
サラの意図が、チラッと顔を覗かせているように思える。
「ふむ。ルイス君は一人で生活しているのだったね?」
「はい。両親は他界してしまいましたので」
「それはいつ頃かな?」
「三年程前です。街に薬草を売りに行った帰りに、盗賊に襲われまして」
「悪いことを聞いてしまったね」
「いえ、もう吹っ切れてますから」
「少年一人で山で暮らすとなると、大変だろう?」
「そうでもないんですよ」
そう言ってルイスは、山での暮らしを話し出す。
いかに山で一人気ままに暮らすのが楽しいかを。
「なかなか大変そうだが、君を見ていると楽しそうだな」
ケビンが少し笑ってルイスに言うと、
「ええ。毎日楽しいです」
と微笑んで答えたルイス。
「よし。過去に盗賊に襲われていたということもあるし、サラの言うように君を従士待遇という事にして、君の身の安全に多少なりと力添えすることにしよう。従士としての給金は出ないが、預かる金を使うときにちょくちょくウチに取りに来れば、ウチの従士だと思う者達も出てこよう。それでいいかな?」
そう決めたウィンストン辺境伯に、
「ありがとうございます」
と返すルイス。
従士待遇程度ならば、自分の自由は阻害されないと思っていた。
「よし決まりだ。じゃあ、今夜は泊まっていきなさい」
「お言葉に甘えさせてもらいます」
そうしてルイスは今宵、ウィンストン辺境伯の屋敷に泊まることになった。




