表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/81


「まず、君の落ち着き具合についてだ。人を殺したのに動じていないように見えるが、以前にも人を殺した事があるのかね?」

 それは少し詮索するような目付きであった。

 人は、特に平民は初めて人を殺した後というのは、気が動転しているものである。

 たとえ前日だったとしても、ルイスの落ち着き具合が、ウィンストン辺境伯には納得出来なかったのだ。


「盗賊に何度か襲われて、その時に何人か。ちゃんと衛兵にも連絡しておりますので、なんならお調べになってください」

 と、平然とした表情で、ルイスは答える。

 あんな小屋で一人暮らしなので、ごく稀に生活に困った冒険者が、盗賊になってルイスを襲う事があった。

 まあ、生活に困る程度の腕しかない冒険者ぐらいなら、ルイスの腕で撃退する事は容易かったのだが、たまに勢い余って殺してしまった事もあったのだ。


「ふむ。疑ってすまないね。殺したのが盗賊ならば問題無いよ」

 納得したのか、ウィンストン辺境伯の表情が柔らかくなる。


「いえ、大事な事だと思いますので」


「で、話は変わるが御礼の件なんだけど、奴らに懸賞金をかけていてね。それを勿論君に払うつもりなんだが、他に何か欲しいものとかないかね?」

 と言われてルイスは、


「お金を頂けるんですか? 人として当然のことをしただけですけど? 御礼とか、この豪華な食事で充分ですが?」

 そう答えたのだが、


「サラの恩人に、金と食事だけでは、我がウィンストン辺境伯家の面子が立たないよ」

 そう、貴族とは面子を重んじる生き物である。


「と言われましても、お金をいただける上に、他と言われても……」

 考え込むルイスを見て、サラが口を挟む。


「お父様、ルイスが貰う金額って?」


「一人につき、金貨10枚だ」


 金貨10枚あれば、街に小さな家を持てる。


「そんなに頂いていいんですか!」

 驚いたルイス。

 一人につき金貨10枚。ルイスが確認したのは四人だが、実際は5人なので、金貨50枚である。


「かまわんよ。正当な金額だよ」


「えっと、あの小屋に金貨を置いて置くのが怖いので、預かって貰えないでしょうか? それが欲しいものの代わりになりませんか?」

 そう提案した。金貨50枚もの大金を小屋に置いておくのは、流石に不安だろう。


「確かに誰でも入れるものね、あの小屋。ねえ、お父様。ルイスをウチの従士待遇にするというのはどう? ルイスを襲うということは、ウィンストン辺境伯所縁の者を襲うのと同義だとすれば、ルイスの身の安全に、多少なりとも役に立つと思うの」


 小屋の不用心さを知っているサラは、それを肯定しつつ、従士にと提案した。

 従士というのは、貴族の家に仕える者の事で、貴族の身内のような扱いになる。

 家令のセバスチャンも、従士である。


 ついでに言うと、従士は結婚するのに許可が必要になる。

 勝手にその辺の町娘と結婚出来なくなる。

 サラの意図が、チラッと顔を覗かせているように思える。


「ふむ。ルイス君は一人で生活しているのだったね?」


「はい。両親は他界してしまいましたので」


「それはいつ頃かな?」


「三年程前です。街に薬草を売りに行った帰りに、盗賊に襲われまして」


「悪いことを聞いてしまったね」


「いえ、もう吹っ切れてますから」


「少年一人で山で暮らすとなると、大変だろう?」


「そうでもないんですよ」

 そう言ってルイスは、山での暮らしを話し出す。

 いかに山で一人気ままに暮らすのが楽しいかを。


「なかなか大変そうだが、君を見ていると楽しそうだな」

 ケビンが少し笑ってルイスに言うと、


「ええ。毎日楽しいです」

 と微笑んで答えたルイス。


「よし。過去に盗賊に襲われていたということもあるし、サラの言うように君を従士待遇という事にして、君の身の安全に多少なりと力添えすることにしよう。従士としての給金は出ないが、預かる金を使うときにちょくちょくウチに取りに来れば、ウチの従士だと思う者達も出てこよう。それでいいかな?」

 そう決めたウィンストン辺境伯に、


「ありがとうございます」

 と返すルイス。

 従士待遇程度ならば、自分の自由は阻害されないと思っていた。


「よし決まりだ。じゃあ、今夜は泊まっていきなさい」


「お言葉に甘えさせてもらいます」

 そうしてルイスは今宵、ウィンストン辺境伯の屋敷に泊まることになった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ