屋敷に招待
「サラ!」
詰所の奥の部屋に、ノックもせずに入ってきた人物が、サラの名を呼ぶ。
ウィンストン辺境伯である。
「お父様!」
座っていた椅子から立ち上がり、父親に駆け寄り抱きつくサラ。
そのサラを受け止め、頭を撫でながら、
「無事で良かった! 怪我はないかい? 奴らに何もされてないかい?」
と優しく問いかけるウィンストン辺境伯に、
「大丈夫! 彼が助けてくれたから!」
と、ルイスを紹介したサラ。
「君が娘を助けてくれたのか?」
ルイスの方を見てウィンストン辺境伯が、声をかけてきたので、ルイスは椅子から立ち上がり、片膝を突いて、
「ウィンストン辺境伯閣下、お初にお目にかかります。ルイスと申します。偶然でしたが、お助けする事になりました。ご無事で良かったです」
と、前世の知識を頼りに、精一杯の言葉を駆使して答えたルイス。
「うむ、ジョセフ・ウィル・ウィンストンだ。よくサラを助けてくれた! 褒美は期待してくれ! それでサラを誘拐したやつらは?」
ウィンストン辺境伯が問いかけた。
ちなみにミドルネームは、親の名前を使うことが多い。
ウィンストン家のウィルさんの子供のジョセフという訳だ。
ミドルネームがあるのは、家の当主だけという決まりがある。
ウィンストン辺境伯の問いかけに、
「えっと、殺しちゃいました」
頭を掻きながらルイスが言うと、
「え? 君がか? 調べによると、サラを誘拐したやつらは、スラムでは腕利きの部類に入るとの事だったが」
驚いた顔のウィンストン辺境伯に、ルイスは、
「色々偶然が重なりまして、結果的に殺してしまいまして」
と言うしかなかった。
実際手を下したと言えそうなのは、斧で顔面を割ったノッポくらいのものだし、罠の二人を殺したのはキラービーである。
キラービーが、二人を殺す手伝いをした格好ではあるが。
「とりあえず領兵を現場に向かわせております。数時間後には、報告に帰ってくるかと」
ウィンストン辺境伯の後から入室した、衛兵の責任者がそう言うと、
「そうか、とりあえず我が屋敷で話を聞かせてくれんか?」
ルイスを見ながらウィンストン辺境伯が言う。
辺境伯の申し出を断るなど、平民のルイスにできる訳がない。が、一応確認として、
「私などがお邪魔しても、よろしいのでしょうか?」
と聞いてみるルイス。
出来れば行きたくないのだ。さっさと買い物して帰って寝たいのだ。
「娘の恩人だ。もちろんだとも!」
と言われてしまっては、選択肢は一つしかない。
「では、お言葉に甘えまして。あ、荷物があるのですが、持って行ってもよろしいでしょうか?」
一応尋ねたルイスに、
「荷物は何だ?」
と問いかけられ、正直に
「売り物の炭と毛皮です」
と話すルイス。
「それならウチで買い取ってやろう。少し色もつけてあげるよ」
と寛容さを見せるウィンストン辺境伯である。
「ありがとうございます」
お礼を述べたルイスはそんなわけで、ウィンストン辺境伯の屋敷に向かう事になる。
リアカーにはもうサラは乗っていない。迎えにきた馬車に乗っているからだ。
「ツイてないなぁ……」
ルイスのボヤキは、誰に聞かれるともなく、風に吹かれて消えた。




