詰所
二人は、というかルイスは街道を、リアカーを引いて進む。サラを荷台に乗せて。
大きめの河にかかった石橋を渡ると、ウィンストン辺境伯領の領都の街、ウストの防壁が見えてくる。
街中に魔物が侵入しないように、高い壁で周囲を囲んでいるのだ。
防壁には四方に門があり、その脇に衛兵の詰所がある。
とりあえず、領兵の詰所に向かったルイスとサラ。
「あのう、誘拐犯を殺しちゃったんですけど……」
と詰所のドアを開けて、ルイスが言うと、
「は?」
と、衛兵が声を漏らす。
「いやだから、誘拐犯を……」
「どこで誘拐の事を聞いたか知らんが、今は子供のお遊びに付き合ってる暇はない! ウィンストン辺境伯のお嬢様を探すのに手一杯なんだ! 帰れ!」
そう言い、ルイスを追い返そうとした兵士に、
「その、ウィンストン辺境伯のお嬢様の、サラさんもお連れしてます」
ルイスがそう言うと、
「何ぃ? 嘘だったら牢屋にぶち込むぞ!」
大声で怒鳴る兵士。
面倒に思ったルイスは、詰所のドアを開け、外に向かって声をかける。
「おーい、サラちゃん! こっち来て説明してぇ!」
サラは外にある荷車に乗ったままだったのだ。
「めんどうくさいなぁ」
そう言って、詰所に入ってきたサラを見た衛兵が、
「サラフィス様っ!」
と眼を見開いて声を上げた。
「あ、貴方見た事あるわね?」
見知った顔の衛兵に、サラが声をかけると、
「もちろんでございます! 何度か護衛させていただきましたから! ご無事で何よりです! すぐに屋敷に連絡します!」
そのデカイ声に、ルイスとサラが耳を塞ぐ。
「任せたわ。とりあえずお茶ちょうだい」
サラが兵士に、茶を要求する。
このへんは、流石貴族のお嬢様である。
「は! 直ちに! おい! 誰かお嬢様にお茶をお淹れしろ! ウィンストン辺境伯の屋敷に、サラフィスお嬢様を見つけたと伝えてこい!」
そう命令が発せられ、詰所の兵士達が慌ただしく動き出す。
サラとルイスは、奥の部屋に通され、おそらくこの詰所にある一番良い茶であろう、紅茶に口をつけた時、衛兵の詰所から馬に乗った兵士が、街中に駆けていった。
「サラが見つかった⁉︎ 本当かっ! 無事なんだろうな!」
報告を聞き、ウィンストン辺境伯が大きな声で聞き返すと、
「衛兵の詰所に、平民が連れてきたそうで、無事との事です!」
ウィンストン辺境伯の屋敷の家令、セバスチャンが答えたと同時に、
「今すぐ向かうぞ!」
と部屋から出ていくウィンストン辺境伯。
「は!」
と、セバスチャンが答えた。




