街へと
「じゃあ、隣の小屋で寝てね」
これは、風呂上がりにルイスがサラに言った言葉である。
「ちょっと! 私を一人にするつもりなの!」
「だって、ここは俺のベッドしかないから。あ、じゃあ隣の小屋で一緒に寝る? ベッド3つあるから」
「ふん! 最初からそう言いなさいよ。こんな山の中で一人で寝れるわけないって、少し考えたらわかりそうなもんでしょうに!」
それを分かれと言うのは酷だと思うが、サラはそう言い切る。
「そう言われても、いつも一人で寝てるからなぁ」
もっともな返事であろう。
「ほんとよく寝れるわねぇ」
呆れるようにサラが言うのだった。
隣の小屋に移動した二人は、少し揉める。
ベッドが三つ並んでいたのだが、サラがどうしても真ん中のベッドで寝ると言い張るのだ。
ルイスとしては真ん中を空けて、両端で寝ればよいと考えていたからだ。
「いーやっ!」
女性のワガママには勝てない事を、前世の知識で知っているルイスは、渋々了承するしかなかった。
「じゃあ、おやすみ」
そう言って、端のベッドのシーツに潜り込むルイス。
もちろん一人でだ。
「おやすみ……」
と、何故か不満気なサラ。
10分ほど経過した時、
「……もう寝た?」
と、サラが声を発する。
だが、返事がない。
聞こえるのは寝息だけである。
ベッドから降りて、ルイスの側に立つサラ。
ルイスを見下ろし、
「美少女が横にいるのに、よく寝れるわねコイツ……若い男は野獣だと婆やが言ってたけど、人によるってことか。初めて他人との外泊で、お尻どころか前まで見られたし、いいかなって思ったのにさ。まあ助けてもらったから、感謝はもちろんしてるけどさ……呑気に寝やがって。私の期待をどうしてくれるのよ」
そう言って、ルイスの寝顔を見つめるサラ。
勝手に変な期待をしていたようだ。
そういうものはお互いの気持ちが重なってからだと、婆やさんとやらに教わらなかったのだろうか?
サラの顔がルイスに近づいていく。
チュッ
ルイスの唇にサラの唇が一瞬、だが確実に触れた後、自分のベッドに戻って、ルイスのほうに顔を向けたまま、サラは眠りにつくのだった。
ルイスは自身が知らぬ間に、この世界でのファーストキスを奪われたのだった。
翌朝、パンモドキと昨日の残りのスープで朝食を済ませ、仕掛けた罠を見て回ったルイスは、2匹の大物、もとい、二人の死体を発見する事になった。
「これって……」
ルイスがサラの顔を見て言うと、
「私を攫ったやつらのうちの二人よ」
と、唇を歪めてサラが答える。
「このままにしとこうか……」
二人はその場をそっと離れた。
そうして、早めの昼食を取った後、リアカーに荷物とサラを乗せ、ルイスは街を目指す。
昼食は、薄いパンもどきに、干し肉を挟んだものだった。
街へと向かう途中、
「お! ルイスじゃん! 今日は知らない女も一緒たぁ、ルイスもなかなか隅に置けないな!」
声をかけてきた二人の男女。
男は腰に剣を帯び、女は手に弓、背中に矢筒を背負っている。
「お! ベガとリーナか。おはよう。ウチの周りでキラービーが出たから、近づかない方がいいぞ!」
ルイスが二人にそう言った。
顔馴染みのようだ。
「マジかよ! 今日はお前んとこ泊まろうと思ってたのに!」
ベガがそう言うと、
「今日はやめとけ。早めに帰った方がいいぞ!」
と諭したルイス。
「そうするわ、情報ありがとう!」
リーナがそう言って手を振る。
「じゃあまたな!」
とルイスも手を振り別れる。
「あの人達は?」
と聞いたサラに、
「いわゆる駆け出し冒険者ってやつ。あの山は薬草が豊富でね。新人達はよく取りにくるんだよ」
と説明したルイスだったが、
「へぇ」
と生返事したサラ。
たいして興味は無いようだ。
何故聞いたのか……
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