文句
「マジが何か分からないけど、サラフィス・ウィンストンがフルネームよ?」
マジとか言うのは庶民であり、貴族は普段使わないため、サラが知らないのも当然だろう。
「辺境伯家の?」
問いかけたルイスに、
「辺境伯家の!」
と、肯定したサラ。
「こりゃまた失礼致しました。でもうちには今日はコレしかないよ? 干し肉ならまだまだあるけど」
干し肉だけは沢山あるのだが、それ以外の肉は無かった。
「街に買いに行けばいいのに」
頬を膨らませてサラが言うのだが、
「街まで歩いて2時間だよ?」
そう、ここは田舎である。
「ここってそんなに遠いの? 私、2時間も歩けないけど?」
買い物だと歩くくせに……
「リアカーがあるから、明日はそれで運んであげるよ」
「リアカーって何?」
「えっと、荷車って言えば分かる?」
「見たことないけど、なんとなく分かったわ」
「とりあえず、冷めないうちに食べよ」
「そうね」
「いただきます」
「いただきますって何?」
と聞かれたルイス。
この世界にそんな言葉はない。
「食べ物に感謝の言葉?」
「ふーん。いただきます。うん、美味しい」
スープを一口飲んで、サラは少し声を大にして言う。
「良かったよ」
とサラに微笑んでルイスが言うと、パンモドキを齧ったサラは、
「このパンみたいなのも、素朴な感じだけど悪くないわ」
ともう一口齧り付く。
「パンみたいにふわふわじゃないけど、味はいいでしょ」
そんな感じで色々話しながら、食事を終えた二人。
食事の後片付けを終えたルイスが、ルイスのベッドに座って、足をブラブラさせていたサラに、
「風呂も一応あるけど入る?」
と聞いてみると、食い気味でサラが、
「お風呂あるの! 入る!」
そりゃ山で少し漏らしたまま、拭いていないので風呂には入りたいだろう。
「じゃあ沸かすから待ってね」
ルイスがカマドの横にある風呂用のカマドに、薪を放り込む。
「お水は?」
サラの、『汲みに行かなくていいのか?』という意味だろう問いかけに、
「ここを回すと、川からの水がこっちに流れてくるんだよ」
と説明したルイス。食事の用意の時にも使っていたのに、サラは見ていなかったようだ。
「へぇ」
「で、薪に火をつけてと。暫く待ってね」
「貴方なかなか器用ね」
サラは少し感心したように言う。
そうして風呂が沸いたので、サラが入浴することになるのだが、脱衣所などこの小屋には無いわけで、浴室の中で服を脱ぎ、着ていた服を浴室のドアの前に置いてある籠に、腕だけ浴室から出して放り込むサラが、
「覗かないでよ?」
と、浴室の中からルイスに釘を刺す。
「覗かないよ!」
と強めに答えたルイス。
そうして、風呂に入ったサラは、風呂の入り口がいつ開くかと期待しながら、風呂桶に入っていたのだが、一向にドアが開かない。
「なんで覗きに来ないのよ……」
文句をブツブツいいながら、風呂桶から上がり、布で身体を拭くサラであった。
その後、風呂に入ったルイスを、こっそりサラが覗いたのは内緒である。




