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聖剣=幼女

 魔力回路とスキルの違いは何ですか?

 こう聞かれた場合どう答えるか。


 同じ火の魔法を構築するとしよう。

 "魔力回路"で火を生み出すには術式の公式を覚えなければならない。

 経験を積むことで感覚的に理解を深め、魔術回路で公式を組んで行使する。

 "スキル"で火を生み出す場合に公式は遺伝子レベルで組み込まれている。

 魔術回路を通すことなく、火の魔法の発動が可能である。


 同じ魔法を連射するのであればスキルの方が圧倒的に早い。

 逐一術式を作るのと既にあるのとで雲泥の差が出るのは当たり前だ。

 また、スキルは魔力回路で不可能な超常の力を行使できることが確認されてる。

 魔術回路では理論構築不可能な術式が組まれているレアケースが存在するのだ。


 僕には物質の再構築という"スキル"が先天的に備わっていた。

 何の捻りも無くスキル"錬成"と呼んでいる。

 魔力回路が壊れている僕にとっては嬉しい話だ。

 しかし、人生そう上手くいかないらしい。

 術式は組まなくても良い。

 但し、錬金術で物質を構築するには魔力の供給が必要となる。

 大量の魔力を供給するには魔力回路がなければならない。

 

「というわけで、僕は朝露の葉っぱから零れ落ちる水滴くらいの魔力で何とか錬成しているから一瞬にして大したモノは作れないんだ」

「えっーと、聖剣を作るのは無理ってこと?」

「いや、朝露も沢山集めれば桶一杯に溜める事ができるでしょ?長い間、コツコツ素材に力を込めて完成前まで何とか漕ぎ着けたというか……」


 実を言うと水滴ほどの魔力しか出せないというのはそんなに悪い話ではない。

 常人には不可能なほどの微調整ができるからだ。

 錬金術は素材を集めるのは簡単と言われている。

 完成品を作るには術式の組み方と魔力を込めるタイミングが重要だ。

 魔力の供給量を間違えると不完全なモノが容易に出来上がってしまう。


 僕は遥かに人より遅いけど、人には出せない速度で遅いため、魔力供給に関して精緻な調整を行いつつ錬成を行うことが可能なのだ。

 物質の構築式は"スキル"がほぼ肩代わりしてくれるのも大きい。

 聖剣とかいう複雑極まりない代物ほど僕に向いていると言っても過言ではない。

 但し、錬成に数年単位の時間を要するけど……。


「瞬間的に魔力を込めたい時とかもあるでしょ?料理で言う超強火みたいな?」

「魔力をこの硝子球に一滴ずつ溜めるんだ。必要な量が溜まったら使用する感じ」


 ちなみに魔力を込める硝子球も僕のお手製で1個作るのに2日間を要する。

 聖剣を作るのに使用した硝子球は500以上。

 同じことを永遠に繰り返すという、まさに地獄のような作業である。


「錬成に関する難しい話は置いておこう。残りの作業として硝子球3個と素材全部を繋ぐ術式を組み合わせれば聖剣が完成すると思う」

「聖剣ってお伽話に出てくる勇者の剣みたいなモノでしょ?」

「古文書には"白銀の雷鳴"とか仰々しいことが書かれてるけど、完成図とかは記載されてないんだ。能力に関してもページが欠けてて確認できないし……」

「なんだか仰々しい呼称ね。でも、期待度はかなり上がったかも」

「そうだね。じゃあ、最後の仕上げを始めるよ」


 スキル"錬成"が導き出した理論に従って素材を並べていく。

 この並べる間隔も大事で多くの錬金術師が見落としがちな要素の1つだ。

 素材の連鎖反応によって新たな物質が生まれる。

 連鎖のタイミングを間隔で調整することも出来るのだ。

 素材の配置が完了し、最後にスキル"錬成"による術式の構築を行う。

 

 その時は一瞬だった。

 淡い光から徐々に光量が増し、遂には目も眩む閃光が放たれる。

 光に合わせるように空を切り裂くような音の連鎖も……。


 ――白銀の雷鳴。


 聖剣が冠した名の通りの現象がアトリエ全体を包み込んでいた。

 そして、音の静まりと共に閉じていた目をゆっくりと開く。

 純白の羽にも似た光の残滓が舞っている。

 単純に美しいと思った。

 白き天使の羽はあるモノを中心として周回していた。

 そこには見目麗しい聖剣が……。

 えっと、聖剣が……。


「ふぁーー、みゅ?」


 ではなく、銀の髪が美しい白き幼女が欠伸をしつつ机にちょこんと座っていた。

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