幕間:密会
メイドが一礼して赤黒い液体をグラスへと注ぐ。
目の前にいる糸目の男はシザース。
ルザック地方の領主だ。
酒が注ぎ終わったことを確認してシザースとグラスを合わせる。
「ギース様、乾杯」
「ああ、乾杯」
一息で酒を飲み干す。
最高の夜だ。
昼間にライオネルハートを糞キルアに譲渡してからというもの気分が良い。
「予定通り彼は正義感のもと、ノルザ村を救おうとしているのですね」
「ああ、馬鹿な奴だ。投げ出せば良いモノを」
「それが出来ないことを見越して借金まで背負わせたのでしょう?酷いお人だ」
「アンタも大概だぜ。ノルザ村だけじゃねぇ、近隣の小さな村落をミノタウロスに襲わせるなんてな」
俺の言葉にニヤリと口の端を釣り上げるシザース。
そして、両手を掲げてパンパンと2回鳴らす。
駆け寄ったメイドに料理を運ぶよう命令を下す。
「私は皆の利益のために動いているのです。老害の住む村を一掃することでね」
「税を納めず消費するだけの民は死ね、だったか?」
「村や町を繋ぐ道路や交易を維持するのにも金が掛かるのですよ。大規模都市ならそれなりの見返りがあります。ですが、ノルザのように朽ち果てるだけの村に投資するのは全くの無駄です」
料理が届く。
前菜のようだが見たことのない野菜が添えられた不思議な料理だ。
金持ちの為政者は俺達のような戦士と食ってるモノが違う。
「お気に召しませんか?」
「もっと食い応えのあるもんを頂けると有難い」
「では早速メインディッシュを運ばせましょう。それとは別に肉料理の追加を」
「頼む」
シザースと出会ったのは半年前。
この計画を持ち掛けられたのも同じ時期になる。
潰したい村落が複数あり、それらを魔物に襲わせるのだと。
ただ、領主としてその事態を見過ごせば不利益を被るのは必至。
そこでライオネルハートを生贄にする。
歴戦のギルドを討伐に差し向けたとすれば言い訳も立つ。
ユリウスの意思を継いだキルアは意地でも成し遂げようとするだろう。
ご丁寧に他ギルドに邪魔されぬ様に別の依頼を出す徹底ぶりだ。
結果、村は全滅。
事後処理は真実と虚偽を含めて、シザースが行う手筈となっている。
ノルザ村にバラまくギルド構成員の死体も複数用意するつもりだ。
俺を信じてついて来た仲間達、その中でも無能な奴を選別して……。
さもキルアと共に戦ったように見せかけるための偽装工作だ。
問題があるとすれば、
「村人達はどうする?村から避難しちまうんじゃないのか?」
メインディッシュと思しき料理が運ばれる。
銀製で出来たドーム型の蓋で閉じられているため中身は確認出来ない。
メイドが開くのかと思ったがシザース自ら蓋に手を掛ける。
中から出てきたのは何かの四肢だった。
戦いを生業としてきた俺には何の四肢かすぐ見当がついた。
「ミノタウロスの子供の四肢か……。悪趣味な奴だ」
「分かって頂けましたか?私の方である程度、操作することが出来るのですよ。不幸にも村人達が避難した場所に憤怒に燃えるミノタウロスを誘導することもね」
俺も屑野郎の自覚はあったが、それ以上の屑が目の前に居る。
だが、それもいい。
暫くはこの男の下で働き私腹を肥やすのも悪くない。