ミノタウロス戦 準備②
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ギルド協会管理の倉庫で準備を終え、僕達はノルザ村に戻っていた。
村長に謝罪した後、すぐに今後の方針についての話し合いとなった。
作戦は単純だ。
ミノタウロスが来るであろう南西の方角で出来るだけの準備を整える。
出現と同時に囮役が村の入口に存在する納屋へミノタウロスを誘導。
付近に待機する僕が、ミノタウロスごと納屋を爆破するのだ。
囮役も僕が引き受けると言うつもりだったが、
「この中で一番、動けるのは私でしょ。大丈夫だから任せて!」
ゴブリンに敗北する僕に発言権はなく、ソフィーが囮役に決定した。
村長が止めてくれるのではないかと期待もしてみたが、2人に運命を託す、の一言で話を打ち切った。
村長もソフィーも覚悟を決めているということだ。
確かに村を救う方法として一番可能性のある人員配置だ。
だから雑念を振り払うことにする。
僕の与えられた役割を確実に遂行する、それだけに集中すればいい。
既に夕方となっていたが村はとても慌ただしかった。
2日後に村の命運を担う決戦が控えている。
村の人員のほとんどは穴を掘る作業に終始している。
大切な資材を遠くに運ぶことは不可能。
ならば穴を掘って埋めればいい、という村長の案だった。
最悪、村が全滅するにしても地面に隠したモノは無事という算段だ。
金品や農具、大工道具など再興に必要な資材は大方地面に埋められた。
村が全滅した場合、再興する体力はない。
ソフィーの発言だが、ただ諦めるということはしない。
未来に希望を繋ぐため再興に必要な道具は全て残しておく。
ソフィーはというと昔、傭兵稼業をやっていたおじさんから剣技を習っていた。
線の細い長剣を握りしめ、突きなど基本的な技を繰り返し練習している。
勿論、真っ向からミノタウロスを迎え撃つわけではない。
あくまで緊急時の手段であり、無知よりは多少なりともマシという判断だ。
そして僕はひたすら納屋に爆砕符を仕掛けていた。
傍から見れば何か祝い事の飾り付けをしているように見えるがそうじゃない。
スキル"錬成"が導き出した計算の元、寸分の狂いなく符を配置する。
壁に貼れる符はまだいいが、空中への配置が必要な札もある。
この場合は固い糸を部屋の端から端へピンと張り、
「符の位置がズレないように2重に糸を絡めてっと……」
幾重にも糸を張り巡らせて符の固定を図る。
ミノタウロスの突進で発生する地響き。
それらも計算した上で細心の注意を払いながら作業を行う。
深夜まで作業は続き、再び日が昇る。
僕とソフィーの作業は昨日までと変わらない。
村人達は資材を全て隠し終えると、避難場所に食料などを運んでいた。
村の側に森の入口となる小高い丘がある。
前日までは村の全貌を見るのに利用する高見やぐらが設置されていたが既に壊されていた。
人工物を襲うという魔物の習性を考慮してのモノだ。
ミノタウロス襲来時に非戦闘員はその場所で息を潜める。
小高い丘であるため、村の様子を確認可能で魔物からは姿が見えにくい。
仮に襲われることになったら背後の森へバラバラに逃げる。
最悪、全滅は避けられるだろうという考えだ。
そんな事態にはならないようミノタウロスを撃破、もしくは退けないと。
僕は自身の内に眠るスキルに問い掛ける。
より有効な攻撃手段は編み出せないのかと。
少しでも威力を上げられる方法があれば全て実践する。
最良の結果を引き出すべく、最後まで自問自答し、改善を試みる。
ミノタウロス襲来の前日、夕方には全て作業が完了していた。
僕と村長で最終確認を行う。
ミノタウロスの襲来が予想されるのは明日の昼頃。
それでも万が一を想定して、
「夜の見張りは僕がするので村長さんや村の皆は明日に備えて休んでいて下さい」
「有難い申し出ですが、キルアさんには万全を尽くして欲しい。村の者に任せます故、今日は十分に休養をお取りになって下さい」
「しかし……」
「ここは譲れません。ささっ、夜の備えは私に任せて。先に家へ帰宅させたソフィーには風呂と食事の準備をさせています。貴方の娘さんも首を長くしてお父さんの帰りを待っている筈です」
考えてみれば村の人達にリーネを預けっぱなしで丸1日顔を合わせていない。
「分かりました。では残りの作業についてはよろしくお願いします」
ここは村長の好意に甘えることにする。
簡単に別れの挨拶を済ませ、村長の家へと急ぐ。
作戦を控えた夜、僕は村長宅にお世話になることが決まっていた。
「昨日はそのまま納屋で仮眠を取っていたからな……」
朝から節々が微妙に痛いのはそのせいだろう。
家の戸を叩くとすぐにソフィーが玄関から顔を出して、
「ようやく帰って来た。風呂とご飯どっちにする?」
「先にお風呂でいいかな。丸1日入ってないし、さっぱりしてご飯を食べるよ」
「湯は張ってるからお好きにどうぞ」
女の子を前に汗臭いのもな、という思いから風呂を選択。
リーネは何処だろうと確認するとソフィーにおんぶして貰っていた。
元気そうに笑う姿を見て、意味もなく安堵する。
これが父の心境ってやつかな。
などと思いながら脱衣所に入る。
僕の衣服を洗濯籠に入れて良いものかと少し迷ったが、
「ソフィーなら、遠慮しないでよ。洗っとくから、とか言いそうだよな」
なんて勝手に解釈して洗濯籠に放り込む。
そして風呂場を開けると、
「広い浴槽だな。5、6人は入れそうだ」
都会の人口密集地帯、そして安宿なんかでは滅多に見られない大浴槽。
少し気分が高揚してきた。
久しぶりに心置きなく身体を休める事ができそうだ。
手早く身体を洗浄して、すぐに湯舟へと飛び込む。
「ぶはっ!?気持ちいい」
これだったら、ご飯の後に風呂でも良かったかもしれない。
ご飯の準備を進めているソフィーの姿が脳裏にチラつく。
早めに出ないと失礼だよね、と思いながらも暫く湯船に入っていたいなぁという欲求が顔をもたげる。
そんな時だった。
脱衣所から確認の声が聞こえてくる。
「キルア、湯加減の方は問題ない?」
「大丈夫。暫くのんびりしたいからご飯の準備は遅めでもいいかな、なんて」
「丁度良かった」
「丁度?」
「私も一緒に入ろうと思ってたから」
だったら、もう少し湯船でのんびりできそうだな。
そう、のんびり……。
はっ?
一緒に入る?
「ちょっ、ちょっと、待って!僕が浴室に居るんだよ!?」
曇りガラスの向こうで肌色の何かが動いている。
見てはいけない。
脳裏に浮かぶは異常な筆圧で書かれた村長の手紙。
娘に手を出したら〇△□×の文字。
「入るよ」
「ッ!?」
僕はソフィーが入るよりも素早く脱衣所に背を向ける。
ガラガラと戸を開ける音が背後に響く。
そして、クスリと妖艶に笑うソフィーの声が僕の脳幹を刺激するのであった。