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答え

 銀髪の幼女が僕達を交互に見る。

 年齢は1歳未満かちょうどくらいだろうか。

 全身が透き通るような白い肌で下手に触れると壊れてしまう、そんな錯覚すら覚えてしまう。

 机に座ってきょろきょろする幼女をソフィーは優しく抱っこする。

 それから僕にゆっくり振り返ると、


「さあ、聖剣の錬成を始めるんでしょ?」


 えぇーーーーー!

 今、君が抱いている赤ちゃんが伝説の聖剣こと"白銀の雷鳴"です。

 そして、口元は笑ってるけど目元が全然笑ってないです。

 

「何が起きたのか説明してくれる?」

「ごめんなさい。その質問については僕が聞きたいです……」

「くしゅっ!」

「あっ、ごめんね」


 ソフィーの髪が鼻先に当たったのか可愛らしいくしゃみをする幼女。

 よしよしとあやしながらソフィーは柔らかな表情へと戻っていく。

 きっと僕を見る時はきゅっと眉間に皺を寄せた表情に戻るんだろうな。

 そう思っていたが彼女の反応は意外なモノだった。


「これで良かったのかもね」

「えっと、どうして?」

「この子はキルアが守らなくちゃいけないでしょ?お父さんなんだから」

「お父さんって……。でも、確かに僕が守らなくちゃいけないかもしれない……」

「だったら死ぬわけにはいかないよね。次の戦い、自分を犠牲にしてでも村を救おうとしてたでしょ?」

「…………それは」

「ほんと馬鹿……。何となくだけど、やっぱりそう思ってたんだ」


 聖剣の攻撃力があれば僕みたいな無能でも、ソフィーさんの身体強化を得ることでミノタウロスと刺し違えることが出来る、そう考えていた。

 僕の攻撃よりミノタウロスの攻撃を繰り出す方が断然速い。

 運良くて相打ち、結果はそれ以下であることが容易に想像できる。

 死にたくはないけど、死ぬ覚悟は持っていた。


「ちょっと意地悪言うと、キルアより私が聖剣を振るった方が遥かに勝ち筋があると思うんだよね。何でも自分がじゃなくて、他人も頼って欲しいな。勿論ね、私や村の皆を危険に晒したくないっていう君の優しさは嬉しく思うよ……。けどね、少しくらい自分のためにズルく生きても罰は当たらないと思うんだ」


 依頼を受けたのはライオネルハートだ。

 僕はギルドのリーダーで、請け負った仕事を達成するのは当然の義務である。

 それが仕組まれたモノであったとしても……。

 

 でも、ソフィーはそうじゃなくても良いと言ってくれる。

 今の僕には力が足りない。

 出来るだけ自分の力が及ぶ範囲で解決しようと躍起になっていた。

 今までやって来たこともないくせに、自分の命まで天秤に掛けて……。


「視野を広く、心を広く持て。これ、おじいちゃんの受け売り。一応、村長やってるからね。結構、厄介事を抱え込むなんて日常茶飯事だから生まれた言葉なんだと思う。それにノルザ村はお年寄りばかりだけど、私達よりも長く生きて経験を積んでる人が大勢いる。助言をくれる人だって沢山いるよ」


 そう言って僕に一通の封書を差し出す。

 それはノルザ村の長からの手紙だった。


「村の人達に話したんだね……」

「逃げるにしても準備は必要だから。おじいちゃんは早く言って欲しかったなぁとか、のほほんとしてたけど。あと、この手紙には村の皆の総意が込められてるから、読んでみて。その結果、もう一度自分が何をすべきか考えること、いい?私は少し出掛けてくるから」

「出掛けるってどこに?」

「この子を裸のまま置いておくつもり?服を買ってくるの」

「ご、ごめん。気が回らなくて」

「ふふっ、丁度1人で考え事するには良い時間だと思うよ。帰ったら答えを聞かせてね。はい、お父さん」


 そう言ってソフィーは僕に幼女を手渡す。

 どうやって抱っこするんだろうと慌てる僕を優しく導いてくれるソフィー。

 家畜の子供が生まれた時に取り上げる方法だから正しくないかもしれないけど、と罰が悪そうに笑いながら。

 

 そうしてアトリエには僕と赤ちゃんだけ取り残された。

 手紙の封を切り、中身を確認する。

 幼女は鼻をすんすんしながらしきりに手紙の匂いを嗅いでいる。

 可愛いなと思いつつ、食べると大変なので手の届かない位置に掲げるようにして中身を読む。


 手紙は過度な期待を押し付けて申し訳なかったという謝罪から始まった。

 次に具体的な一時避難計画や戦いに参加可能な人員情報など多岐に渡る。

 村の外ではなく中で迎え撃つための作戦なども記されていた。

 何もない平野より地の利を活かして戦った方が良いという勧めだ。

 その場合どのくらいの被害までなら許容できるか、という情報も添付されてる。


 そこまでの内容で手紙の半分。

 後はお叱りの言葉なのかなと覚悟をしていたが全く違った。

 ソフィーがどれだけ可愛いのかという自慢。

 そして、最後の一文だけ異常に筆圧の掛かった殺意ある文字が羅列されている。

 娘に手を出したら〇×△□――。

 

 最後やソフィーの自慢はともかく、恨み言など一切なく村が提供できるモノや情報が丁寧に記された手紙だった。

 ソフィーと同じだ。

 前向きに困難を打破するために必要となる情報を僕に示してくれたのだ。

 良い人に育てて貰ったのだとソフィーを羨ましく思った。

 そして僕も、


「僕もユリウスに育てて貰ったんだ……。思い出せ、今までの教えを」

「みゅっ?」

「あっ、ごめん。自分の世界に入り込みすぎて……。何処か痛かった?」

「んっ」


 くすぐったそうに僕の腕の中で身震いをする幼女。

 泣きはしないみたいだと少し安堵する。

 そして、こう思う。


 僕もソフィーも立派な人に育てて貰った。

 この子にもそういった親が必要であることを。

 8年前を思い出す。

 当時のユリウスも赤ちゃん同然の僕を引き取って色々と手を焼いたのかなと。


 図らずも僕は同じ状況に立たされたのだ。

 けれど僕の場合、3年前にユリウスを失って悲しい思いをした。

 そして、人生の地獄を味わった。

 

「同じ思いはさせたくない」


 意地汚くても生きる事を考えろ。

 もしかしたら、周りを傷付ける選択も必要になるかもしれない。

 それでも沢山、皆の力を借りて少しでも犠牲を出さない方法を模索するんだ。

 それが僕の出した答えだった。

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