*3 ジョナ
平沢紀香は、窓にもたれ掛かって外を眺めていた。
緑がいっぱいで、桜吹雪が綺麗だ。窓は綺麗に磨かれていて、外の木々に触れそうな気がする。
その反射した窓に、百面相をしながらこちらに向かう橋本のぞみが映っていた。
紀香は、突然やってきたのぞみがどこか苛々しているのを見て、のんびりと首を傾げた。
「のぞみちゃん? どしたのー?」
嫌な人が隣になった? と聞く紀香に、のぞみは首を横に振った。
「嫌なヤツじゃないんだけど……」
むしろ最初は好意すら抱いたんだけど。
「……ちょっと変な人で」
事の次第は話せない。
初対面で告白以前の告白もどきをされました、なんて。
「隣、誰?」
「……新城くん」
あ、“ジョナ”かぁ。と紀香は合点した。
「おもしろかったよね、自己紹介」
「うん……おもしろかった、ケドね」
――――新城夏樹は、登校初日から妙に浮いていた。
少し伸ばした茶髪とだらっとした制服。
顔もそこそこいいので最初は周りの派手な女子がかまっていたけれど、中身が意外と地味なのがわかってからは、相手にされなくなっていた。
登校二日目の自己紹介。
夏樹はいかにもだるそうに椅子から立ち上がった。
「……新城夏樹です」
ナツキかー。小学校のころにそんな名前の女の子いたなぁ。
というのが、のぞみが夏樹について抱いたはじめての感想だった。
そんなのぞみの内心を見透かしたかのように、夏樹はこう続けた。
「ナツキ、って呼ばないでください。女子に間違われるのであんま好きじゃないです。呼ぶなら名字か、」
そこで夏樹は一瞬迷った。
「――ジョナ、って呼んでください。中学んときのあだ名です。以上」
…………『ジョナ』。
本人が無愛想だったのが逆にウケた。
ジョナだってぇ、なんかカワイイー。
どこかの女子がそう言うと、みんなが同調した。
それから夏樹は男子のほとんどと女子の半分くらいから、「ジョナ」と呼ばれている。