*2 おねがい
「……。……はぁ!?」
のぞみは慌てて周りを窺った。
……セーフ。誰も聞いてない。皆自分たちの自己紹介に夢中。
落ち着け落ち着け。
「……ダメ?」
「ダメっていうか……どういう意味、それ」
「どういう意味って……」
聞かれた夏樹は、とんでもないことを語り出した。
「俺、好きな子できるのってほんとに幸せなことだと思うんだ。恋するってほんとにいいことだと思う。つまり、……橋本さんになら恋してもいいなって思って」
照れながら言う夏樹を見ていたら、混乱に拍車がかかった。
なに、それ。
早口で聞き取りづらい長ゼリフをようやく自分の中で翻訳する。つまり?
「……あのさ。それ、言われる方にとってどんだけ失礼か分かってる?」
「なんで?」
「だって、つまり、恋できれば誰でもいいってことでしょ? ……それとも」
たまたま隣の席の私がタイプだったとか?
いや、そうだとしたら今こんな風に言わないで、普通に恋すればいいんだよ。うん。
勝手だ。自己チューすぎる。
夏樹は頭に?マークを浮かべて言った。
「いや……他の子でもいいってわけじゃないよ」
「え?」
……なんでそんなへらへらしてるの。
「うん、橋本さんだからいいなって思ったんだ」
だからなんでそんな軽くそんなことが言えるの。
のぞみは夏樹から目を逸らした。
「新城くん」
「はい?」
「それ、冗談として聞いとく。……冗談にしてもちょっと失礼だと思ったけど、ほぼ初対面だからスルーしとく」
「え、いや、ちょっ……」
のぞみは我慢できずに立ち上がって、窓際で寛いでいる友達の方へ走った。