*1 プロローグ
「あれ。……橋本のぞみさん、でオーケー?」
桜も散って、やっと学校にも慣れてきて、新しい友達ができたころ。
「うん。えーっと……新城くん、だよね」
クラスではじめての席替えがあった。
「あれ? よく覚えてたね、俺の名前」
夏樹は目を丸くした。
「覚えてるよ。自己紹介、すごいインパクトあったもん」
「そう? じゃ、“ジョナ”って呼んで」
夏樹は人懐っこい笑顔を見せて、嬉しそうに答える。
意外といい人かも、とのぞみは思った。
自己紹介のときはもっとやる気なくて、あんまり笑ってなかったし、ふてくされてるようにも見えたけど……
いい席に当たったかもしれない。
のぞみはようやくほっとして、肩の力を抜いた。
「なんかイメージ違うね」
もっと無愛想で、女子になんて話し掛けなそうなイメージがあった。
「何が?」
「意外と話しやすそうだなって思って」
「そう?」
夏樹は軽く答えて辺りを見回した。周りの皆も新しく近くの席になった人に自己紹介やらアドレス交換やら、好き勝手なことをしている。
アドレス交換しよっか。
夏樹ならいいかと思い、のぞみは鞄から携帯を取り出して顔を上げた。
そのとき突然、夏樹が真剣な顔をした。
「……新城くん?」
どうしたの、と問おうとしたのを手で遮られた。
「ちょっと、お願いがあるんだけど」
何。なんでそんな小声で囁くの。
夏樹はそのまま近付いてきて、周りを伺いつつ手を合わせて頼んできた。
「俺に恋させてください!」