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第6話 文字では伝わらない想い

【後輩】こんばんは、先輩


 L○NEに打ち込んだ文字を見て、私は一人ほくそ笑む。

 現在時刻は午後九時。学校の宿題を終え、お風呂にも入り、後は寝るだけという万全を期した状態である。


 私は気付いてしまったのだ。

 直接対面せず、LI○Eという媒体を通せば煽られても対応出来るということに!

 ふふん♪ これで思う存分、先輩の慌てふためく姿が見られる!

 昂る気持ちのままに画面を眺めていると、数分と経過せずにピコンという音を鳴らしてメッセージが表示された。


【先輩】何か用か?

【後輩】用事がないと連絡しちゃダメですか?

【先輩】いや、そんなことないけどさ。珍しいなと思って。普段なら、遊びに行きましょう! みたいに第一声が用件だから


 過去の私ぃ! がっつきすぎでしょ! どれだけ先輩と遊びたいの⁉︎ 遊びたいけど!


【後輩】今日は本当に用件無しです。ただただ、先輩のことが気になっただけですよ?


 早速この作戦の効果が実証された。

 どうですか、この冷静な一文は! 見事に健気な後輩キャラでしょう!


【先輩】奇遇だな。僕も、ちょうど君のことを考えていたところだ


 ふぇあっ⁉︎ な、なんてこと言っちゃうんですか、この先輩は!

 ……いやいや、落ち着け私。ここに彼はいないのだ。


【後輩】そんなに私が恋しいんですか?

【先輩】随分と返信に間があったな? 普段なら数秒で返ってくるのに


 だからがっつき過ぎだって、私ぃ!


【後輩】偶然ですよ。ちょっと他のことしてただけですから!

【先輩】そうか

【後輩】そうですっ! 変に勘繰らないで下さい!


 ふぅ、なんとか誤魔化せたかな?

 けれど、相変わらず先輩のペースである。なんとかして流れを変えないと……


【先輩】気付いてないようだから助言するけれど


 ん? 助言?


【先輩】君が首尾よく僕をからかえても、確認できないからな?


 あ。

 ああああああ⁉︎

 なんてこと! 自分の身を守ることばかり考えて、目的を見失っていた! 正に本末転倒!


【後輩】な、なななな、なんのことでしょう?

【先輩】もはや文字ですら取り繕えなくなったか

【後輩】先輩が正論大魔神だから悪いんですよっ!

【先輩】それは貶しているのか?

【後輩】そうです! 先輩にはユーモアが圧倒的に不足していますっ! 反省……いえ、猛省してくださいっ!


 作戦なんて放り出して、思いのままを送信してしまった。

 すると、絶え間なく着信音を響かせていたスマートフォンが沈黙する。


 もしかして、言い過ぎただろうか。……怒ってしまったのだろうか。

 対面して話している時は、言葉の節々から優しさを感じられるけれど、文字だけだと判断がつかない。

 どうしよう、嫌われたのだとしたら、私は――


 その時、握りしめた携帯から待望の音が響く。

 急いで確認するものの、そこに表示されていたのはメッセージではなく着信画面だった。しかも、ビデオ通話。


 私は慌てて通話ボタンを押す。

 身だしなみを確認するべきなんだろうけれど、その間に呼び出しが途切れる方が嫌だった。

 

 スマートフォンの画面上に先輩の顔が映し出される。

 あ、ちょっと髪濡れてる。お風呂上りなのかな?


「……もしもし、先輩ですか?」

『ああ、急に悪いな』

「ほんとですよ。ビデオ通話なんて、どういう風の吹き回しですか?」

『……どうにも、僕は文字でのやり取りが苦手みたいでさ』

「……え?」

『本気で怒らせてしまったのかと心配だったんだけれど、その様子だと杞憂みたいだな』

「あ……」


 先輩も私と同じこと考えてたんだ。

 それで、確認するためにビデオ通話を……

 もしかして、髪が乾いてないのも急いでお風呂から出てきたからかもしれない。


「ふふっ」

『どうした?』

「なんでもありませんよ〜」


 こんなのは取るに足らない、ちょっと考え方が同じだっただけのこと。

 その筈なのに、こんなことでどうしようもなく嬉しくなっちゃうなんて、私はどれだけ先輩のこと……


「先輩、せっかくだしこのまま少しお話しませんか?」

『いいけど、寝落ちなんてするんじゃないぞ?』

「あ、当たり前です! 私の寝顔を見ようなんて、半年くらい早いんですからっ!」

『そんなに早くないな?』


 そして、お互いに見つめ合いながら取り留めのない話に花を咲かせる。


 ……翌日、寝落ちした私をネタに滅茶苦茶からかわれた。

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