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第1話 超絶可愛い記念日

 ――僕には一つ年下の後輩がいる。


 まあ学校に通っているならば、その定義に当てはまる人間が数十、あるいは数百人いても不思議ではない。

 しかし当然ながら、そんな広義の話をしているのではなく。


「せ~んぱい、今日が何の日か分かりますか?」


 僕の隣をぴったり歩く狭義の後輩。

 いつものように、けれど久し振りに二人で登校する道すがら、これまたいつものように、唐突に話題を振ってくる。


「まるで何かの記念日みたいな聞き方だけれど、僕には始業式しか思い当たらないよ」

「ぶぶ〜! はずれです! 正解は私が超絶に可愛い日でした〜!」

「……それは難問だ」

「ふふん♪ 先輩に女子の機微を見分けさせようなんて、ハードルが高すぎましたかね?」


 まるで意味の分からない会話だけれども、慌てたり突っ込んだりしては彼女の思う壺だ。何故なら、それこそがこの後輩の目的だから。

 どんな性癖持ちなのか定かではないけれど、僕のテンパる姿が見たくて見たくて仕様がないらしい。

 だからあくまでも普段通りに、淡々と切り返す。


「そうだな。たとえ君が髪ボサボサのクマ丸出しで現れても気付かないかもしれない」

「流石に気付いてくださいよ!」

「もちろん、隣にいるのが君から見知らぬ男に変わるようなら判別も可能だろうけど」

「当たり前ですよ! それに、女子なら判断出来ないみたいな言い方はやめて下さい!」

「…………」

「どうしてそこで黙るんですかぁ⁉︎」

「ちょっと自信ないなって」

「なぁっ⁉︎ さ、最低です! こんな超絶可愛い後輩が分からないなんて、見損ないました! 先輩なんて……先輩なんて、私と豆腐を見間違えてキスした挙句、大豆の美味しさを噛み締めちゃえばいいんだぁ!」


 顔を真っ赤にして歩く速度を上げる。

 二歩、三歩と彼女との間隔が広がっていく。


 ――けれど、そこまで。

 

 それ以上距離を離すことなく、ただ僕を見ないように歩き続ける。

 人のことを煽る割に、煽り耐性が全くない後輩。

 すぐに怒るけれど、決して離れないでくれる後輩。

 ……全くもって可愛い後輩である。


「待てよ」

「なんですか? 今更取り繕おうとしたって許しま――」

()()()超絶可愛いぞ」

「ふぇあっ⁉︎」


 想定外だったであろう言葉に、思わずに足を止めてこちらに振り返る。

 その顔は、さっきよりも遥かに赤く染め上げられていて。


「ふん! 言われなくても知ってますよ〜だ!」


 べっ! と舌を出してせめてもの抵抗を示す。

 僕は感情が表に出ないよう必死に抑えながら彼女の下へ歩み寄り、また二人並んで歩き始めた。


「あ、先輩! そういえばですね……」


 そして、煽り耐性ゼロの後輩は、再び僕をからかうために話し始める。

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