「あぁやっぱり、好きだった」
「終わりにしよう」
何事にも終わりはあった。結局、そう仕向けたのは私だった。どんなに苦しくても風化する。喉元を過ぎれば、熱さを思い出せないように。
飽きてくれてよかった。
記念日もはっきりしないような曖昧な関係だった。離れているときほど好きで、一緒にいるときほど辛く苦しい恋だった。
そんなことも、風化する。過去になって進んでいく。
ここで終わればいいと、何度願ったことだろう。
王子様はずっと、王子様でいるわけではない。
「はじめまして」
「……は?」
それは彼らにとって束の間のお遊びのようなものであった。それでも、面識はあって過去であっても事実であった。
「久しぶり、だろ」
「はじめましてです。どこかでお会いしましたか」
数年前よりも、彼女も彼も違ったところをたくさん持っていた。偶然に会ってしまった彼は申し訳なさから彼女に先に声をかけた。彼女の現在が気になった。
薄暗いバーの店内は、お酒さえ堂々と買えなかった彼にとってのあの頃と真逆で、それでいて連想させるものであった。
「覚えてないならいいよ」
彼は延々と過去を振り返るのを嫌った。すべては今を優先して選択されたものであり、それは確実に将来に続く道だった。
すれ違うように、彼は店を出る。バーの店長はため息を吐いた。
客観的に見れば、わかることだったのだ。
空間を独占するような彼女もため息を吐いた。バーのドアが音を立てて、切り取られてから少し経ったときだった。
「お姉さん、どうぞ」
甘ったるいカルーアミルクを好む常連客の仕方のないような涙に、店長はハンカチを渡した。たまにあることだった、時折そのバーでは客が泣いた。それは、無口な店長の人柄がそうさせるのか、それともほかの何か、なのかはわからない。しかし店長はそういうものなのか、人の涙を見るのが他の人よりも多いと感じていた。
「好きだったなんて、後々喚くのは男だけじゃないですね」
「……女性も、そんなことがあってもおかしくないですねぇ。恋ですから」
「一般女性ならきっと、いやもっと素直に、見栄を張らない、普通の女性ならきっと。あのドアから戻ってきたならきっと。……まぁないんですけどね」
「あなたにとって、それは過去ではないのですね」
「過去ですよ」
俯いた彼女は、震えた声でそう言った。
「マスターはたくさんの人を見てきたのでしょうね。人に、飽きませんか」
「飽きるという感覚を人に抱いたことがないですねぇ……僕は」
「そうですか。もしかしたら、私はひとではなかったのかもしれません。だから、こんな愛し方しかできない」
店長である男は、一人の人間として考えた。彼女は人に見えた。
「……カルーア、もう一杯」
その声に考えるのを止めて、男は頷いた。それは他のカクテルと変わらず、それでいて甘くなるようにと考えた。
「少し、寂しくなるだけなのだと。そうその時は思えて、わかっていたので、堪えて。それでいて、見守ろうと思えたんです」
「As you there is a nice encounter.」
たまにはと思って、第三視点系の小説を書きました。お酒を覚えても、きっと愛も恋も流せるものではないんでしょうね。