22.六日目、特別補習三時限
次は『風の回廊』と呼ばれています。
焦り不安苛立ち、特に老化や衰退への恐怖に対して効果的です。
大きく深呼吸して下さい。
高い塔の中にいると考えましょう。
この塔は半透明のガラスでできています…………ええ、巨大なビルディングでもいいですよ。
そこには無数の階段があり、多くの人が登ったり降りたりを繰り返しているので、見ていると自分もどこかへ行かなくてはならないような気がしてきます。
……はい、そうですね。
落ち着かない。
周囲が透けるから一層落ち着かない。
…………そこへ風が吹いてきます。
柔らかで優しく、心地よい風です。
髪がそよぎ、頬に当たり、服をなびかせ、次第次第に強くなってくるその風に、誘われるようにあなたは階段を降り始めます。
が、よく見ると、階段ではなくなだらかに下っていく、緑のスロープです。
あなたは風を浴びながら、ゆっくり前へ進みます。
…………どうですか。
体が浮きそう?
………はい……歩いてても止まっててもいい感じ?
そうですね。
……………風がどんどん強くなっていきます。
あなたはそれに身を任せていきます。
前へ倒れそうになっていても、吹き付けてくる風が安定して支えてくれています。
………目を閉じてきもちよさに浸りましょう。
………両手を広げてもいいですよ。
風の抵抗に甘えましょう……。
………ふ、と気を抜くと、あなたは宙に浮きました。
空気のベッドのようです。
ゆっくりと体の重みであなたは回廊にそって降りていきます。
……もうすぐ着地。
目を開いて、手足を伸ばしてバランスを取りましょう………よろしい。
三、ニ………一。
すとん、と降りたそのままに、ころんと前へ寝転びます。
……続くステップは『大地に寝転ぶ』です。
体の下に温かな土があります。
…………両手をのばしてごらんなさい。
……何にも触れない。
足は?
………触れない。
大きく動かしてみましょう。
…………どこにも触れないですね。
遠くの方で雷でしょうか、微かに聞こえますが、遠ざかっていくようです。
地面は温かく、背中から穏やかな日があたってきます。
……………いかがですか。
広いでしょう。
…………目を閉じて、自分が全速力で走ってる姿を考えて下さい。
それから、その足下から前に果てしなく伸びていく道を想像しましょう。
……両側に遮るもの一つなく、地平線が広がっています。
あまりにも広いので、走っていても止まっていても、あまり変わりがないようです。
あなたは走るのを止め、立ち止まり、しゃがみこみ、寝転びます。
いいですか……?
……………そのあなたは、今『風の回廊』を降りてきたあなたにぴたりと重なって吸い込まれます。
………どんな感じでしょうか。
……重い?
二倍になったから………なるほど。
その重さを感じましょう。
…………溶け込むようです?
………はい、いいですね。
できる人は溶け込んで下さい。
それが怖い人は、そのまま目を開けて起き上がって、戻ってきましょう。
山小屋でいいです。
そこからこの教室に戻ってきて下さい。
………溶け込んだ人?
……あなたは深い地下までしみ込み、やがて地上へ噴水として吹き上げられて戻ってきます。
…………凄いスピード感?
怖いですか?
そう……楽しいでしょう。
はい……戻ってきましたね。
では、そこから同様にこの教室へ。
……………よろしいですね。
………隣の席の人を見て下さい。
みなさん起きていますか?
……………はい。
では、みなさん。お帰りなさい。
…………何をきょとんとしているんですか。
特別補習は終了しました。




