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ザルバと少女-2

 紫煙が宙を漂う。久方ぶりに感じるその光景に、ザルバは後悔を感じずにはいられない。一人でいるときは滅多に吸わないのに、唐突に吸いたくなる状況というのは、ザルバには時折あった。

 周囲の喧騒があまりにも大きく感じる。今いる場所では常日頃がこのような状態ではあるはずだが、普段寄り付かないからか余計に気に障るのだろう。それほど、ここにくるのは今では珍しかった。特に、多くの人が集まるこの時間帯に、だ。

 通称、《青のピッケル》。さらに略して青ピケなんて呼ばれることもある。

 どこに行っても通りの良い名といえば、《ギルド》。それがこの場所の呼び名だ。

 ここは荒くれ者の巣窟で、彼らに稼ぎの元の仕事が集まる場所だ。そしてその胴元として仕切る役割を持っている。

 ここに集まる有り余る金で、まるで見せつけるかのように大きく作られたこの建物は、冒険家とそれに関わる職種だけでなく、時たまくる一般客も一同に会す。その最もたる場所のメインホールでは、しかし、自然と利用者の棲み分けが出来ていた 。

 ザルバはメインホールのとりわけ角隅にいた。出入口から一番遠く、だが入口付近の受付場を一望できる場所だ。

 すぐ側に大きな窓枠のあるこのエリアは、喫煙者(スモーカー)が自然と集まる場所になっている。いまも数人の同業者(・・・)が一服していた。チラリと彼らがザルバに向ける視線はあまり感じがよくはない。馴染みある顔ではないからだろう。冒険者など半年もすれば馴染み顔など変わっているのだから、それも仕方ない。

 ここを陣取るのは随分と久しぶりだ。馴染みの葉巻の店にもしばらく行っていないくらいだった。

 煙を漂わせながら、ぼんやりと入口にある受付カウンターをみやる。ザルバが最近連れ歩いている少女が、受付の担当者と言葉を交わしている。

 名前も言わない少女は、この街で生きたいという。それも、その中でもっとも過酷で毎日誰かの生き死にが起きているダンジョンという場所で。

 そのために今、冒険者(むぼうもの)が最大の恩恵を受けることができるギルドにきて、利用者の登録をしているはずだ。

 はずだ、と、言わざるを得ないのも、ザルバの記憶よりも登録に時間がかかりすぎているからだった。

 ちまちまと吸っていた葉巻も3本目が終わりそうだ。

 ま、あのナリじゃ仕方ないか、と考えながらザルバは次の葉巻を取り出した。

 少女を遠目に見れば、周りの同じ目的の者と比べても明らかに華奢だ。戦いに身を置く身体じゃない。

 せめて見た目での厄介ごとを減らそうと、適当な服や防具を着せ、外套にはフード付きを選んでいる。お陰で一見で女にはみえないようになったが、それでも非力な少年でしかない。

 冷やかしと思われているのかもしれない。

 助け船を出しに行くべきか。考えながら、葉巻に火をつけようとした時だった。

「おや、珍しい奴が今日はいるじゃないか」

 ザルバの前に偉丈夫が歩いて来た。元の色が消え失せて、綺麗に染まった白髪。細かな皺が伺える顔は、穏やかな村の気のいい老人にしか見えない。しかし、切れ長な細目からは、微かながらも確か眼光が輝く。加えて、歩む所作も老いぼれなどと断じて言えないほど、隙がない。

 容姿は一目で老齢であるとわかるのだ。だが彼の動きが醸すものは、歴戦を謳う熟練そのものだった。

 ザルバも思わず眉を釣り上げた。一瞬、誰かわからなかったからだ。

 記憶を掘り起こし、ようやく納得した時には、驚愕の声を上げざるを得なかった。

「おいおい。あんた、まだくたばってないのかよ。『煙の旦那』」

 ザルバが胡乱げにそう言うと、煙の旦那、と呼ばれた男はかっかっか、と軽やかに笑った。

 ザルバがこの男を見るのは年単位ぶりだ。記憶の中では、まだ白髪に染まりきっていなかったはずだった。

「お互い様なセリフだな。ザルバ。お前さんも、終ぞ1人で屍になっていると思ってたんだが」

 それを鼻で笑いながら、ザルバは改めて葉巻に火を灯した。

 その隙に目の前の老体は、するりとザルバの横を陣取った。周りの喫煙者(スモーカー)が軽い挨拶しながら場所を開けるあたり、よく来るのだろう。

 ザルバが本数を重ねながら、地道に作った快適であり貴重なスペースに、この男はするりと入り込んできた。定位置を持つ常連さながらの動きだ。

「いつ以来だ、ここでモクモクやってんのは」

『煙の男』はよほどザルバがここにいることを珍しがっているようだ。自身の吸い物も取り出さず開口一番にそう発した。

 興味を特別もたれるほどの仲だったろうか、と思いながらチラリと見れば、するりと一服をかましていた。火を落としたパイプを揺らしながらながら、ゆっくりと煙を吐き出す様は堂にいっている。

「さてね。俺もそんなこと覚えちゃいない」

「当ててやろうか」

 ザルバは特に答えなかった。

「お前がここを使い出すのはこれで3度目だ」

 思わず舌打ちした。噂というのはすぐに広がる。

「3年か。こんどはどんな奴と組んでるんだ、ザルバよ」

「今日たまたま来ただけかもしれねぇだろ。邪推すんじゃねぇ」

 ため息混じりに煙を吐き出せば、隣の男はくつくつと笑い出した。

「最近そう、熟練の1人が妙な子供をダンジョンに連れ込んでるって話がある」

「なんだよそんな話があるのか」

「子供を連れ回してるのは褐色の大男。得物は腰に括った2本の短剣」

 紛れもなくザルバのことだった。まだ4、5日程度のことだというのに、だ。

 いつか広まるだろうとは言え、あまりにも早すぎる。

「とぼけ方はもう少し訓練がいるな」

「うるせぇ。余計なお世話だ」

 まったくもってくだらない話だ。たかだか少女1人だ。少し目に付くだけで、目にしなければ記憶に残るような話題でもないだろう。

「まったく、さっさとオサラバしてやりたいもんだが」

 溜まりきった葉巻の灰をゆっくり落とす。ついでに件の少女の様子を見れば、どうやら明らかに困っている、という様子だった。

「ほーぅ。あれがそうか」

「煙の旦那、そのニヤついた顔はやめてくれ。頭が痛くなりそうだ」

「おやおや。どうしてだ」

「噂を広めるのは、あんたのようないつ潜り(・・)に行ってるか分からん奴って相場が決まってるだろ」

 案に仕事をしろと言ったのだが、当の本人はまるで気にしない様子だった。

「カッカッカッ。そりゃ違いない話だが、俺はちゃんと仕事はしてるさ。ただここで一服する日が多いだけだ」

 楽しげに笑う隣の男にウンザリしながら、ザルバはもう一度葉巻を咥えた。

 しかし丁度そこで、受付から離れて少女がザルバたちのほうへやってきた。

「ザルバ。あの……私だけでは厳しいみたいで」

「厳しい? 登録がか?」

「はい」

 こくり、と頷いた少女を見ながら、ザルバしばし思案する。見た目的にたしかに渋られるかもしれないが、特別それを理由に拒否されることはないはずだが。

「ふむ。君がザルバのお連れさんか」

「おい旦那」

「折角なんだ。少し話すぐらい構わないだろう?」

 隣のスモーカーは、どうやらザルバが連れる子供への興味が少なからずあるようだった。

「あの、どなたですか?」

「おおう、悪かった。俺はグラーク。周りからは煙の、なんて呼ばれてるただの老いぼれさ」

「そんな名前だったのか旦那」

 名を名乗るとは思ってなかった。ザルバはこの男を随分と昔から顔は知っていたが、気づけばずっと通り名だけで呼んでいた。

「お前、知らずにいたのか。まぁ確かに、名乗る必要もないもないからなぁ」

 概ね、周りの奴もそんなとこだろうと胸中でザルバは呟いた。煙片手の周りの輩も大抵は似たよな反応だ。

 それほどまでに、この老人の異名は知れ渡っている。

「それでっと。坊主、俺にも名前を教えてくれないかない?」

「あーそれはだな」


 困った。昨日に引き続いて、またもや名前の問題だった。

 少女を見る。彼女もこちらを見ていた。どうしようかと問いかけるような目だ。知るものか。ザルバにとっては名前の1つなどどうでもいいことなのだ。

 けれども、どうにも気分が晴れない。きっと、このまま同じような場面に出くわすのが目に見えているから、気が滅入っているのだろう。

「どうしたんだ」

 グラークがザルバを見た。訝しげるような仕草に、ザルバは考えを巡らせざるを得なかった。

 本当のことを話すべきか。しかし、グラークは少女のことを、坊主、と呼んだ。ザルバが少女を拾ったのは奇妙な経緯であり、本人の様子を鑑みるに、何かしらの曰くがあるのは間違いない。無理に話して、いらないことまで詮索はされたくはないというのが本音だ。

 無闇に話すのをしたいとは思えなかった。

 だが、明らかな嘘を言ったところですぐに見抜かれるだろう。

 瞬時に周りを様子見ながら、声を低く小さめにして伝えることにした。


「……悪いな。名前は俺もしらない」

「ああん?ザルバ、お前さん連れの名前も知らずに潜ってやがんのか」

「悪いか」


 悪態をつくように葉巻を揉み消すと、グラークはまぁいいかと言いながら壁に背を預けた。


「そういうことなら今回の件は簡単だろう。大方、名前も言えないようなら登録もできやしない」

「別に偽名でもなんでも咄嗟に出るだろ。それくらいしなかったのか」

「お前さんが俺にそれを言わなかった。その時点でこの話はしてないんだろう。ガキを責めるな阿呆」


 ザルバが苦い顔をした。彼はこういうことを器用にはこなせない。当然だった。ザルバは日銭を稼ぐためにダンジョンに潜っているだけの男だ。

 身元不明、名前も言わない。そんな少女を引き取ってどうにかする甲斐性はそう易々と持ち合わせない。


「仕方ねぇ。今日のところは諦めて帰るしかないな」

「えっ……ザルバ、それだと私だけで換金も潜りもできないって」

「今日のところは難しいだろ。あんだけ時間かけてダメで、唐突に名前を言いに言ったところで怪しさで突っぱねらる」

「でも」

「今すぐに必要なものじゃない。ダンジョンから生きて帰ってこなけりゃ意味がない。お前には、早けりゃいいってもんじゃねぇ」

 それに、ここまで踏み込んできたグラーク以上に、周りで煙を漂わせる輩にあまり印象付けたくはなかった。

 数年の間をひっそりと生きてきたザルバにとって、進んで噂の種を撒きたいとは思わない。

 もっとも、その点で言えば、グラークは顔が広く、なによりお喋り(・・・)好きだ。

 久しく顔を見なかったザルバについての噂話を、身体的特徴だけで嗅ぎつけて仕入れている。下手をすれば、それを周りに喧伝する側に彼は成り得るだろう。

 訳ありを伝えた以上、良心的であって欲しいものだが、それこそ、今まで名前を知らなかった相手に勝手な期待をするのは無理だった。

 ともあれ、少しの手ぐらいは打つべきか。

「煙の旦那、せっかくの機会だ。一杯引っ掛けにいこうや。その調子じゃ、今日は仕事する気はねぇんだろ?」

 グラークは腰に採取などに使う短剣こそ持っているが、防具で身を固めているわけではない。ないことはないだろうが、明らかにダンジョン潜りをする様ではなかった。

 グラークは、ふむ、と煙を吸い込見ながらザルバを見た。片目が微かに開きザルバを見定めようとする。

 ザルバは少しばかり肩を竦めた。誘う理由は友交を深め流だけじゃないというのは、グラークほど生きた人間であれば機敏に察するはずだ。

 グラークは煙を吐き出すとニヤリと笑った。

「カッカッカッ。いいぞ、ザルバよ。そういうことなら付き合おう。酒で物を忘れるほどボケてはいないが、それでもいいんだろう?」

「そりゃな。まぁあんたとの付き合いはそう深くないが、酒で忘れねぇってんなら酒でどっかが軽くなることもそうはねぇだろ?」

「さて、それがどうかは、腹に入れる物次第ってところだろうなぁ」

 まったく。食えないジジイだ、とザルバはひとりごちた。通いの店でもいい酒はある。問題は、クラナが調子に乗ってザルバの財布を攻撃しないかどうかって、というところだった。その可能性は、果てしなく大きいが。


 大人の迂遠なやり取りを、黙りながらも聞き込んでいた少女は、次第に事の内容が自分に関わったものであることに気付いたらしい。

 なかなかどうして、無知ではあるが、聡い少女だというのはザルバも少しは思わざるを得なかった。

 ただ、そっと自分の小銭袋に片手を寄せるのを見ると、二人の大人は否応にも顔を変えた。

「ザルバ、オメェさんの甲斐性のなさは相変わらずだなぁ」

「知った風な口をきくんじゃねぇよ。自分の稼ぎで自分の飯は賄う。俺たちの基本だろうが」

「あの、そういう約束なので……ちゃんと私は考えて選ぶようにします」

 グラークはやれやれと首を振って自分のキセルを懐にしまった。

「安心していいぞー。今日はザルバの奢りらしい。美味(うま)いもの食って明日も潜るんだろう?」

 カッカッカッ、と笑いながらグラークが歩きだす。それでもまだ少し不安の色が取れない少女の頭に軽く手を置き、気にするなと伝えてやる。

 小柄な少女はそれで少し俯いてしまった。

 背中を押して二人でグラークの後を追うと、どういうわけかグラークは出入り口に向かってはいなかった。

「そら、飯の前に野暮用を済ませるぞ。ザルバ、少し手伝ってやるよ」

「ああ? 何するってんだ」

 好々爺としたグラークが口の片端をあげてニッと笑った。

 帰ってきたのは、答えではなく問いかけではあったが。

「ザルバよ、『プルプラの物語』は知ってるか?」





「えーと、では……この子が二人のお連れで、しばらくは、ザルバさんの元で踏破域を伸ばしていく、ということでいいですか?」

 受付カウンターで再度の登録を試みて暫く。若手とは言えない男二人が、10かそこらの子供を連れ添っていることに、担当の男がようやく事態を飲み込んだところだった。

「おう、そういうこった。そら用紙も書き上げた。確認しといてくれ」

「はぁ……たしかに。名前は、ジェニアリス、ですか」

 担当官がちらりと名前の当人に目線を投げた。あまり聞きなれない響きに、素直に受け取っていいのか迷っているようだった。

「この子、ちょいと遠くから来たらしくてな。ギルドは別に出身を制限してないんだ。詮索はよしてくれよ」

「おい旦那」

 勝手に話を積み上げていくグラークに、ザルバが待ったをかける。

「なに名前なんて勝手に」

「どうせお前さんじゃいつまでもつけてやれねぇだろうよ。ま、仮でもいいしな」

 顔を寄せ小声で抗議するもサラリと流されてしまう。

「はい、それではこれで。ジェニアリス、ヒューマン、11歳。特記事項なし。研修担当にザルバ・ドルトーク。期間は『洞窟型』のエリア7を踏破するまで」

 よろしいですね、と担当官から声をかけられればザルバは渋々頷いた。

 思いの外、ノルマが広い域に設定されてしまった。最初はエリア4……初歩の初歩程度を教えておさらばしようと思っていたというのに、これではそうも言ってられない。

「りょーかい。ギルドのため、新米のため、善処するだけはするとする」

「ありがとうございます。では、形式的なものですが、こちらに署名を。パーティにジェニアリスを加えることについてですね」

「へいへい」

 諦めながら自分の名前を書き込むザルバは、明らかに嫌そうな顔をしたままだった。

 経歴の長いザルバなら無駄に説明もいらないだろうと、早々に解放されたことがまだ救いなのかもしれない。


「おい旦那。なんで名前をアレにしたんだ」

 ギルドの大扉を通ってすぐ、ザルバが憮然とした様子でグラークを問い詰めた。

「カッカッカッ。なに、ちょいとした物語から取ってきただけだ。知りたかったら今度お勉強でもしてこい」

 嬢ちゃんもな、とグラークが少女……ジェニアリスにも声かける。

「えっと、はい。わかりました。グラークさん」

「おいおい、グラークでいいぞ嬢ちゃん。偽名でも名付け親みたいなことしたんだから、それくらいはいいだろう?」

 快活なグラークに半ば押し通されるような形でジェニアリスは頷いた。少し距離を開けて引いてしまっているのは明白だが、グラークは気にした様子がない。

 自由奔放さを醸し出してきたグラークに悩まされる頭を振りながら、ザルバもう仕方ないと諦めに入っていた。

「旦那、あんた最初から……」

「なんだ」

「いや、いい。ここまで来て隠す必要もないだろうし、思う方が間違いだった」

 どこからグラークは把握していたのか。連れ歩いているのが少女だと分かった上で、彼は接触してきただろうとザルバは当たりをつける。

 基本的に不干渉であるのが冒険者稼業の鉄則だ。命をかけて日銭を稼ぐ輩は、叩けば埃がよく出てくる。それをわざわざ互いに被りにいったりはしない。

 これほど強引に接触してくるのは、少なからず今日この時のためではないはずだ。

 厄介事の臭いがする。20近い歳月を同じ生業で過ごしてきて、何度も似たものを感じている。

 しかしながら、すでに乗りかかった船は進んでいる。いや寧ろ、乗り込まれたのかもしれない。

 相応の間、顔を付き合わせることになった少女を見る。ジェニアリスはどこか浮ついた様子のままザルバの一歩後ろをついてきていた。

 ため息を吐く。葉巻を取り出したくなってきた。

「で、酒に飯と、宿でも用意すればいいのか」

「話が早いのは助かるなぁザルバ。ああ、とりあえず明後日。そこからお前と嬢ちゃんの潜りに付いて行かせてもらおう」

「一応聞いておく。旦那、あんた俺と同じソロだろ。なんでだ」

 グラークがニッっと口端を上げた。今日何度も見た彼の笑みだ。

「なに、仕事にあぶれてたとこにいい案件を見つけたら、放って置くには惜しいだろう?」

「抜かせ」

 ザルバは彼の答えを一蹴した。そも、簡単に言うようなものでもないだろう。

 しかし、ひとまず納得する形は必要だった。

「稼ぎをまともにすんなら一人で行ってろ。それでもいいなら、勝手についてこればいい」

 臨時のパーティーみたいなものだ。気に入らないならさようなら。それでいいはずだ。


 気付けば日がすっかりと傾き初め、空が緋色に焼かれ初めていた。仕事帰りの面々が少しづつ増えてきた通りを、したり顔のグラーク、反して少なからず気落ちしたザルバ、そして、とてとてと二人の後ろをついていくジェニアリス。段々と漂う酒場の料理の香りに腹を空かせながら、3人はザルバ馴染みの店へ到着した。

「まぁ、まずは飯か」

 ザルバが腹の減りに耐えかねて、思わずそう呟きながら引き戸を開けた。

 この時、ザルバはすっかりと油断していた。当然だった。空き腹な飯時ほど、酒場というのはよく懐を突いてくるのだ。大いに。




 夜の帳がすっかり落ちた頃。

 看板娘ことクラナの初めて見るやもしれないという、とびきりの笑顔で言われた飲み代に、ザルバはひそりと胃がよじれることになった。


読んでいただきありがとうございます。

少しでも気にいていただけたら、ブクマ、評価、感想、一言でも反応を貰えるととても嬉しいです。

筆不精ですが、反応をもらえる限り、物語を進めて行きたいと思います

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