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アカツキエイト  作者: 小沢 健三
第3章 トヴァン
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第3章 トヴァン -1 宍戸 航

宍戸 渉は、大阪大学を卒業後に防衛省に入省したエリート。

転機は入省6年目の28歳で訪れた。


きっかけはチェコだった。

当時、イランの脅威を理由に、アメリカがチェコとポーランドに大陸間弾道ミサイル警戒の為のレーダーサイトを建設し、合わせてポーランドに迎撃ミサイル基地を建設する計画を有していた。


ロシアはこれに反発した。

イランの脅威と言うのは建前で、自国への牽制けんせいだと言う見方をした事と、その施設が出来る事によってイランの目が欧州へ向く事を懸念した為だ。


日本としては当然アメリカの側に立ち、チェコとポーランドに専門家を送り込んだ。

レーダーの専門家であった宍戸はチェコへ向かった。

それまでの6年間、宍戸の意識はもっぱら北朝鮮に向いていた。

あらゆる攻撃の可能性を考慮し、それに対策を練る。

テクノロジーの進歩を理解しようとしない上官たちに対して喧嘩同然で意見を述べたことも一度や二度ではない。

官僚的な根回しもしてきたが、“知らないこと”の脅威を伝えるにあたっては根回しだけでは足りないのだ。

サイバーテロの脅威を幾らいたところで、パソコンも満足に使えない上官たちは首を縦に振らない。


“妥協する事も必要だ”と何度言われたことか。

“自己主張が強すぎて官僚には向かない”と何度言われたことか。


だが宍戸は、その都度膨大な量のデータを集め、放置した場合に起こり得るリスクを100も挙げ、30回も50回も上官をテーブルに釘付けにした。


5年もすると、周囲の見方が変わってくる。

面倒な奴だと言う思いは変わらないだろうが、実績が出来ると周囲も宍戸ししどの意見を軽視する事は出来なくなる。

実際に宍戸ししどの提案と行動によって重大な危機にひんする可能性を未然に防ぐことが出来た事例も複数あり、いつしか“国防の切り札”なんて言う通り名が付いていた。


そんな宍戸に与えられた新たな任務がチェコでのレーダーサイト建設だったわけだが、宍戸は今回の計画への“違和感”を禁じ得なかった。

宍戸からすると、イランのミサイルは確かに脅威ではあったが、それは決して大きなものではなく、チェコとポーランドにおける建設計画はどう見ても過剰だった。

例えるなら、1人のナイフを持った中学生の少年がいるからと、20人の熟練した兵士がライフルを装備する様なものだ。


そして、建設の為の予算は天文学的な数字だ。日本も少なくない金額を拠出する。

イランの脅威が去る可能性も高く、5年もすれば無用の長物になる可能性が高い基地。

その必要性を叫ぶアメリカも、それに踊らされる日本も、宍戸からしたら狂っているとしか思えなかった。


スタンスの違い、と言うのは、時に議論の場で相違を生む。

同じ1人の敵でも、ナイフを持った中学生なのか、ロケットランチャーを装備した、訓練された軍人なのかによって当然に対処法は異なる。


会議の場では、皆が競ってイランを過大評価した。

ナイフを持っただけの1人の中学生だと本音では思っているのに、映画“ランボー”の様な百戦錬磨の強者つわものが相手だと前提して話が進められているのだ。


宍戸としても、相手を過小評価することが戦史において重大な損失を招いて来た事は承知している。

だがこの件についてはその次元の話ではない。アメリカ側の、それも国内の政治的な要素に振り回されているのは明らかだった。


それを理解しつつも、上手に権力の傀儡かいらいとして立ち回るのが優秀な官僚なのだとすると、宍戸はそうではなかったのだ。

複数の会議で事業の削減を提案した結果、計画の途中で帰国を命じられ、帰国後数ヶ月で所謂いわゆる左遷部署への異動を命じられる事となった。


組織の中での自分自身の存在に疑問を感じ始めた頃、1人の男が宍戸ししどの肩を叩いた。


男は楠木くすのき 裕市ゆういちと名乗った。


最初はよくいる納入業者の1人だと思っていたが、男の知識の量には舌を巻いた。

“あくまで推論ですが…”と前置きしつつ、宍戸ししどでも知り得ない、いや防衛省でも一部の幹部しか知り得ない様な情報をサラッと話す。


北朝鮮については流石に宍戸の方が情報を持っていたが、仮想敵国とされるイラン、パレスチナやアフリカなどの内紛を抱えている国々、そしてそれらをどうビジネスに活かすのかなどの情報は量•質ともに宍戸ししどの持つそれをはるかに凌駕りょうがしていた。


“何者だ?コイツは…”


と言うのが宍戸ししどの第1印象だった。

そして、自然と楠木くすのきと言う男に興味が湧いた。

議論を戦わせるのが楽しかったし、新しい情報を楠木くすのきから仕入れるのが楽しかった。


初めて会ってから2ヶ月後、楠木くすのきの言った「力を貸して欲しい。」と言う言葉に、宍戸ししどが迷う事はなかった。


そのわずか1ヶ月後には、防衛省での荷物をまとめ終わっていた。


第3章のスタートがかなり遅れてしまって申し訳ありません。

本業の方で色々あって、なかなか手を付けられずにいました。


以前の様に毎日更新したいところなんですがスケジュール的にちょっと難しそうで、とりあえずこの話だけをアップしました。


なので次話投稿がいつ頃になるかはまだ未定です。


申し訳ありませんが、長い目でお付き合い頂ければ幸いです。


宜しくお願い致します。

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