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アカツキエイト  作者: 小沢 健三
第2章 孤児
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第2章 孤児 -12 インタビュー

ドアノブの上にあるパネルをタッチすると、1〜9までの数字とC、Eの文字が浮き上がる。

ゼンタは慣れた手つきで6桁の暗証番号を入力し、Eを押す。


これまでおよそ4ヶ月、ほぼ毎日通ってきたオフィスだが、今日は少しだけ緊張感がある。

ゼンタの後ろには、母親であるこずえとラフィがいるのだ。


「さぁ、どうぞ。」


ドアを開けて2人を招き入れる。


ゼンタには見慣れた“リビングルーム”。


「うわぁ!広いわね〜!」


こずえが興奮気味に辺りを見渡す。


「ゼンタ!あなたこんなに立派なオフィスで働いているのね!母さんほこらしいわ。」


「まぁ…ね。」


ゼンタはあかつき商事のビジネスにまだ全く貢献出来ていないと感じているので、オフィスをめられることに、嬉しさよりも歯痒はがゆさを感じる。


初めてここに来た日のことを思い出す。

確かにこの“リビングルーム”には圧倒された覚えがある。

無機質な空間だが、ここは恵比寿の、一流と言う言葉では足りない様なハイエンドのオフィスビルなのだ。

事務所にすれば20人以上は働けるであろうスペースには、ソファとテーブル、あとははしにサーバーなどのコンピュータが置かれている以外は何もない。

何もない、という事が、圧倒的な威圧感を産む。

スタッフ達はそこで思い思いにくつろぐが、ゼンタは肩に力を入れずにくつろげるようになるまでに1ヶ月以上を要した。


今日は、撮影クルーらしき人たちが数人、既に陣取じんどっている。

少し大袈裟おおげさに見える照明器具が3つ置かれ、カメラは3台。


ラフィは、それらの状況を見てナーバスになったのか、こずえの背後に隠れ、それをこずえが「あらラフィ、ここまで来て怖くなっちゃったの?」と揶揄からかう。

「そんなことない!」とラフィがこずえに反論する。

そう言う軽口かるくちのやり取りが出来ることに、ゼンタは少しホッとする。


「ハイ、こずえ、ラフィ。」


2人を見つけて、スージーが自室から出て来た。こずえとハグをわした後、膝に手をついて目線を下げ、ラフィに向き合う。


「ラフィ、あなたはやっぱり強い子ね。緊張はするでしょうけど、生放送じゃないんだから何度でもやり直せるわ。リラックスしてね。」


そう言ってラフィの両肩に手を乗せる。


力強くうなずくラフィ。


「ふふ。力が入りぎよ。それじゃあなたのキュートな顔が台無しだわ。」


そう言ってスージーはラフィの頬にちょんちょんと2度触れた。


少しだけラフィの表情がやわらぐ。


絶世の美女であるスージーにほっぺをちょんちょんされたら、自分なら嬉しくてれ臭くて、と想像して鼻の穴がふくらむ感覚をあわてて打ち消す。


「やぁ、来たね。」


と言う声に目を向けると、楠木くすのきも自室を出て来ていた。


ゼンタの肩を叩きながら、こずえの方を見る。


「あッ!母です!」


こずえが頭を下げる。

しばしの沈黙。

その後に、楠木くすのきが口を開く。


「…どうも、あかつき商事の代表、楠木くすのき 裕市ゆういちと申します。この度はご協力いただきまして誠にありがとうございました。」


「ゼンタの母です。息子がお世話になっております。」


それぞれが頭を下げたあと、数瞬すうしゅん見つめ合う2人。


「ボス…?」


スージーが声をかけると


「あ、あぁ。撮影クルーは既に準備が出来てる。ラフィの準備が出来次第声をかけてくれ。こずえさんとゼンタはラフィを少し落ち着かせてやって欲しい。」


こずえ…さん?”


楠木くすのきが母をファーストネームで呼ぶことに若干の違和感を感じたが、


「はい。分かりました。」


と言って、ラフィをうながし、ソファに座らせる。

ラフィはズボンのポケットからメモを取り出し、小言で何度も読み返している。

こずえがラフィの背中をさすっている。


「オーケー。大丈夫。僕、話せるよ。」


ラフィがソファに座り、カメラを見据みすえる。

スポットライトが2つ、ラフィに向けて当てられ、まぶしさに一瞬目を細める。

表情がほんの少しだけ緊張と恐怖でゆがむ。


「大丈夫よ、ラフィ。ここは安全だし、私たちがついてるわ。」


こずえがそう言い、楠木くすのき、スージー、ゼンタが同意する様にうなずく。


「ラフィ、準備が良ければ合図してくれ。」


楠木くすのきが声をかける。

このビデオは、ラフィの独白と言う形ではなくて、インタビュー形式が取られる様だ。画面に映るのはラフィだけだが、カメラの脇にインタビュアーが座る。

聞き手は楠木くすのきつとめる。


「準備は良いよ。どうぞ。」


その声を受けて、楠木くすのきが撮影クルーに目で合図する。


「さてラフィ、まずはお礼を言うよ。今回のインタビューを受けてくれて本当にありがとう。そして、君の勇気に最大限の敬意を払いたい。君は本当に強い男だ。僕らは、君のことが心から誇らしい。」


楠木くすのきの声を受けて、ゼンタがラフィに向けて親指を立てる。

それを見て、緊張気味だったラフィのほほが少しゆるんだ。


「ではまず、名前と年齢を聴かせて貰おうかな。」


「はい。ラフィ•プトゥリ。11歳です。」


「産まれはどこだい?」


「トヴァン王国です。海岸線を見渡せる、広い牧場で8歳まで育ちました。」


「8歳まで、と言うことは、そこを離れたと言うことだね?それはどうして?」


「“唯一神の小姓こしょう”に選ばれたからです。」


「“唯一神の小姓”と言うのは、トヴァン正教の中の役職で、唯一神サンジャイ•クマールのそばで仕事をする少年のことだね?」


「はい。表向きは…。」


「と言うと、実際は違うのかい?」


「はい。唯一神サンジャイにつかえるのではなく、大司祭フンラド•ダミアン•クユジにつかえるのです。」


「フンラド•ダミアン…。つまり君は、8歳で家を出て、そのダミアン大司祭につかえた、と言うことだね。そこでの仕事はどんな内容だったんだい?」


「…。」


こずえとゼンタは、声こそ出さないが心の中でラフィに大きな声援を送る。

握ったこぶしの内側に爪が食い込んで痛い程だ。


「質問を変えよう。君はそこで、ダミアン大司祭に“何をされた”んだい?」


しばらくの沈黙。

ラフィがこずえの顔を見る。力強くうなずこずえ

ゼンタも隣で握り拳を作り同じ様に力強くうなずく。

ラフィは2人の顔を交互に見ると力強くうなずき返し、口を開いた。


「彼は、ダミアン大司祭は、僕をレイプしました。2年間にわたり、何十回、何百回と。」

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