第2章 -11 撃退
「ちょちょ!ちょっと母さん!」
ゼンタは慌てて転がり出る様に車から降り、梢の元へ向かう。
既に石場の方も片付いている様で、3人の男が車の傍に倒れている。
「何やってんだよ!危険なことしないでよ!」
ゼンタが梢の肩を掴み、叱責する。
「あら、だってあのままだと石場さん、ちょっと危なかったじゃない。」
「いやそうだけど!」
「大丈夫。母さんは無事よ。心配してくれてありがとね、ゼンタ。」
「いやありがとうじゃなくて…」
石場は、慣れた手つきで男たちの両手をビニールテープで後ろ手に縛っている。
ゼンタたちの車の横に、白いワンボックスカーが止まった。
スーツ姿の男ともう2人の男が降りてくる。
暴漢たちの援軍かと思い、身構えるゼンタだったが、
「石場!悪い、遅くなった。」
とスーツ姿の男が声を発したことから、構えを解く。
スラッとした、如何にも切れ者と言う感じの男。
見た感じは仕事の出来そうなビジネスマンそのものなのだが、それでいて何故か底知れない恐ろしさを感じる。
一緒に来た2人男達が、同じ様に慣れた手つきで、梢の足下で気を失っている男の腕を縛ると、暴漢達を担ぎ、ワンボックスカーの後部座席に放り込む。
「怪我は…ないな?」
とスーツ姿の男が石場に問うと、石場が頷く。
「お二人も、怪我はありませんね?」
「あ!は、はい!僕は大丈夫です!母さんは?」
「大丈夫よ。」
「良かったです。お二人に怪我をさせたとあっては、我々の首が飛ぶかも知れないところでした。」
フランクな口調とは裏腹に、このスーツ姿の男がすごく恐ろしく感じる。
ギロッとほんの少し睨まれただけで失禁してしまいそうな、圧倒的な迫力にたじろぐ。
「いえ、そんな…。あ、石場さんの警備会社の方ですか?」
「えぇ…。まぁ、そんなところです。石場!」
呼び掛けに石場が顔を向ける。
「問題がなければ、そのまま病院へ向かってくれ。後の処理は俺たちに任せろ。」
石場が頷きを返す。
「皆さん、御安心下さい。我々は警視庁のものです。暴漢は我々が逮捕致しました。」
いつの間にか、周囲に30名程の野次馬が集まっていた。
スーツ姿の切れ者が演説する様な口調で語りかけると、パラパラと拍手まで起きている。
「梢さん、先ほどはありがとうございました。」
そう言って石場が梢に頭を下げる。
「ただ…、2度とあの様なことはなさいません様に、お願い致します。」
「すみません…。」
バツが悪そうに梢が頭を下げる。
「そうだよ母さん!ホント、怪我でもしてたらどうするつもりだったんだよ!」
「ごめんなさい、ゼンタ。」
「さて、では後のことは彼らに任せて、我々は病院へ向かいましょう。」
「あ、えっと、あの方々は警視庁の方…なんですよね?僕らは、事情聴取とかは良いんでしょうか?。」
ゼンタのその問いに石場は答えない。
「…少し、予約の時間に遅れてしまいそうですね。蕪木さん、病院へ連絡をお願いします。」
「は、はぁ…。」
そう言って車に戻ろうとすると、開いたままのドアの脇にラフィが立っていた。
「ごめんねラフィ、怖かったよね?」
ゼンタがそう声をかける。
「あ、アイ…」
「うん?どうしたのラフィ?」
梢が優しく問いかける。
「…ゼ、ンタ…、僕、話をするよ。これまでの、ことを、話すよ。カメラの、前で。」
ラフィが声を発した。
「ラフィ!話せる様になったのか!あ…、話してくれるのはとても嬉しいんだけど、無理しなくても良いんだよ。今はちょっと怖かったから気が動転してるんだろうし…」
「ううん。僕は、話すよ。このままじゃ…いけないから…。」
両手の拳に力が入っているのが分かる。ゼンタを見つめるその目には、これまでになかった強さを感じる。
すると、梢がゼンタのラフィの間に割って入った。
「…そう。あなたはやっぱり強いわね、ラフィ。あなたが誇らしいわ。」
そう言うと、梢はラフィを抱き締める。ラフィの目を涙が伝う。
「さぁ、行きましょうか。」
石場がそう告げ、運転席のドアを開けた。