表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アカツキエイト  作者: 小沢 健三
第2章 孤児
16/22

第2章 孤児-8 ボディガード

「東海警備から参りました、石場いしば じんと申します。これから1ヶ月半の間、蕪木かぶらぎ様親子とラフィ少年の護衛にかせて頂きます。宜しくお願い致します。」


つい数分前に楠木くすのきから、しばらくの間ゼンタとこずえ、ラフィにボディガードをつけると説明されたばかりにも関わらず、内線が鳴り、リビングルームに案内された男。

刈り上げた短髪にMA1と言う姿は、警備会社の社員と言うよりも軍人の様な印象を受ける。


蕪木かぶらぎ 善太ぜんたです。宜しくお願い致します。」


そう言って頭を下げるが、急な展開に頭がついていっていないことを感じる。


「石場さんは、トヴァンへも同行して貰う予定だ。日本では、まぁそれほど警戒する必要もないだろうが、あっちに渡ってからのことを思うと、ラフィに早めに接点を持って貰う方が良いと思ってね。それで早めに来て貰う事にしたんだ。」

楠木くすのき


「そうなんですか…。」


改めて、危険が及ぶ可能性があるのだと言うことを実感して身慄みぶるいしてしまう。


「それから、もう1つ狙いがあるんだ。」


「…と言うと?」


「格闘技だよ。ゼンタにもある程度は覚えておいて欲しい。」


「えっ!それって、必要…なんですか?」


「どうだろう。結局は必要にならないかも知れない。あくまで俺たちは、喧嘩けんかをしに行くわけではなくてビジネスをしに行くんだからね。ただ、トヴァンの情勢はゼンタも知っての通りだ。日本にいるのとはわけが違う。備えあればうれいなしさ。」


「それは、まぁ…そうですね。」


「こう見えても、俺もわたるもスージーも、武道の心得はあるんだ。」


「えっ⁉︎スージーもですか⁉︎」


「あぁ、ウクライナのホパーク…って言ったかな?そう言う武術があって日本で言うと師範代級の実力者らしい。」


「そう…なんですか…。」


「もしもの時にスージーにまもって貰うんじゃ流石さすがに男がすたるだろう。」


「それはまぁ…そうですね…。」


驚いた。スージーは世界最大手の検索エンジンでアルゴリズム分析を担当していた才媛さいえんだ。

更にあれだけの美貌びぼうで、格闘技までこなすとは。


「その…トレーニングはどこでするんですか?」


「ん?ここで良いだろう。せっかくのスペースだ。ソファとテーブルを退ければ道場に早変わりさ。」


「は…はぁ…。」


「と言うわけで、今日から毎日1時間、ゼンタにはここで武術を学んで貰う。」


----


1時間後。


“リビングルーム”のグレーの絨毯じゅうたんの上にゼンタは転がっていた。

速すぎる鼓動がおさまる気配は全くない。


石場いしばというボディガードは、全く息も切らしていない。

すごさ”は、最初に対峙した時に感じた。


「さぁ、まずはどこからでも打ち込んで来てください。」


そう言って石場は、構えるでもなくただ“立っていた”。

にも関わらず、その圧倒的なオーラでゼンタは近づく事も出来ない。

そもそもゼンタは、喧嘩けんかをしたのも高校生の時以来記憶がない。

人を殴るのが怖い。

そうして逡巡しゅんじゅんしていると、

「来ませんか…。」

と石場がつぶやき、気づいた時にはグレーの絨毯じゅうたんに投げ飛ばされていた。


「さぁ、立って下さい。次です。」


何度かそれを繰り返したあと、ゼンタからもこぶしを出したが、そのこぶし石場いしばに届くことはない。

気付けば同じ様に絨毯じゅうたんの上に転がされていた。

10本を越えた頃から、石場が倒れているゼンタに追撃をしてくる様になった。

なのでおちおち倒れてもいられないのだ。

恐らく、石場の投げ方のおかげだと思うが、ゼンタには不思議な程にダメージはない。


「22本…。そろそろ1時間ですね。出発までにはこれを50本にまで増やしましょう。」


「ご!ごじゅう…っ⁉︎」


「さて、少し休んだら、蕪木かぶらぎさんのご自宅へ向かいましょう。」


そう言うと、石場はリビングルームを後にした。

驚異的な密度の1時間だった。


「50本か…。」


明日からのトレーニングを思うと悪寒おかんがする。

ふと、気配を感じて後方を見ると、いつからいたのか、はしけられたソファにスージーとパトリシアが座って此方こちらを見ていた。

あわてて立ち上がるゼンタ。


「お恥ずかしいところを…。」


「恥ずかしくなんてないわ。まぁ、仕方ないわよね。」

口を開いたのはパトリシアだ。隣に座るスージーも同意する様にうなずく。


「スージーなら1本くらいは取れた?」


とゼンタが聞く。


「え⁉︎無理に決まってるじゃない。あんなタツジン相手に…。パトリシアはどう?」


「う〜ん…。難しいでしょうね…。20本やって1本取れれば良い方だと思う。」


「パトリシアでもそのレベルなのね…。と言うことでゼンタ、あなたが絨毯じゅうたんの上に転がされるのは仕方ないわ。にしても…、あれだけのタツジンを連れてくるなんて、さすがボスね…。」


「私もそれは思ってたわ。あれだけのタツジンは軍隊にだってそうそういないわよ。私たちも時間があれば稽古けいこをつけて貰いたいわね。」


「あら!それ良いわね。ボスに話してみようかしら!」


スージーの顔がパッと明るくなる。


なんだか、格闘技女子たちの話に花が咲いている。

話の内容からすると、コサック武術だかの師範代級であるスージーよりもパトリシアの方が強いらしく、そのパトリシアでも石場は圧倒的に映るらしい。

石場>>>パトリシア>スージー>>>>ゼンタ、という感じだろうか。

そもそも、彼女たちが格闘技の経験がある事すら今日まで知らなかった。

格闘技とか、所謂いわゆる体術的な強さなどこれまで全く意識せずに生きて来ただけに、少し自信がなくなるのを感じる。


「さて、ではそろそろ行きましょうか。」


エントランス付近から顔を出した石場がゼンタに声をかける。


格闘技女子たちはまるでアイドルでも現れたかのように、2人でほほ上気じょうきさせてキャッキャと石場を見てはしゃいでいる。

スージーは絶世の美女と呼ぶに相応ふさわしいし、パトリシアもスージーと並んでしまうと劣るものの、一般的に見ると充分に美女と言える。

シンプルにそう言う黄色い声を浴びる石場がうらやましい。

その石場は、まるで声も聞こえないかのように、彼女達の方を見る事もない。


「…あ、はい。すみません。」


何処どことなく、居心地の悪さを感じながら、ゼンタは石場の後を追った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ