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ダメな姉(わたし)は妹を愛でる  作者: 御園海音
十月の妹も可愛い(下)
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第92話 ダメ姉は、トラウマを告白する

先週結局更新出来なくてゴメンなさい。遅れた分日曜では無く今日更新します。3月4月は予定がぎっしりで来週ももしかしたら遅れるかもしれません。その時は申し訳ございませんがまったり待っててください。

 ~SIDE:コマ~



『―――でも、ね。嬉しいけれど、でも……ごめん。ごめんなさいカナカナ……私、カナカナとは……お付き合いできません……っ!』


 今日は大好きなマコ姉さまに告白をした叶井さまに対して、姉さまが告白のお返事をするという私にとっても運命の日です。

 ここ一週間は『姉さまは叶井さまに一体どんな返事をなさるのだろう』とか『仮に姉さまが告白を受け入れてしまったら、私はどうなってしまうのだろうか』とか―――怖くて、不安で、辛くて、苦しくて……夜も碌に眠れていなかっただけに……そんな姉さまの返事を聞いた時は一週間分の重苦しい緊張が一気に解け、喜びのあまり思わずその場で小躍りしちゃいそうになった私だったのですが……


『―――私には、誰かに好きになって貰える資格がないのだから……』


 『お付き合いできない』という発言の後に続いた、姉さまのその予想外の一言ですぐさま手放しで喜べなくなってしまいます。


「(好きになって貰える資格……?資格……?なに……?何ですかそれ……?一体……何の話なのですか姉さま……?)」


 双子の、実の姉の言葉なのに……生まれた時からずっと傍に居たはずなのに、その私にも姉さまが今何を言っているのかが全くと言って良いほど理解できません。


『…………待って、待ちなさいマコ…………悪いけど本気で意味が分からない』


 そんな風に大変混乱している私の気持ちを代弁するように、叶井さまが寂し気な笑顔から一変して真剣そうな表情でマコ姉さまにそう尋ねてくださります。

 私も……知りたいです姉さま。教えてください……今の姉さまの言葉の真意を……



 ~SIDE:マコ~



 精一杯考えて考えて考え抜いて、それで頭の中がパンクしちゃいそうになりながらも告白してくれたカナカナに私のカナカナへの好意を打ち明けたところで、『お付き合いできません』と返事をした私。

 その返事の直後はどこか諦めたような……悲しそうな……それでも納得したという満足げな表情を私に見せてくれたカナカナだったんだけど……


「…………待って、待ちなさいマコ…………悪いけど本気で意味が分からない」


 付き合えないワケを私が口にした瞬間に、何故かカナカナのその表情は一気に崩れる。柔らかな笑みは消え、疑念と困惑と……ちょっぴり怒りにも似た感情をカナカナは私に向ける。


「『好きになって貰える資格がない』ですって?資格って何よ?……あんた一体何を言っているのよマコ」

「あ……い、いや……その……」

「答えてマコ。今のどういう意味なのか」

「……えっとねカナカナ…………ええっと……」


 そう問いかけてくるカナカナの目は……とても真剣で……少し怖くて……尻込みしてしまう。

 ……やっぱり、これは言うべきじゃなかったのかな……?で、でも……付き合えないワケを説明しようと思ったら『資格がない』と言う以外他にないし……


「だ、だってホラ……ご存知の通り私って色々とダメ人間じゃん?か、カナカナと私じゃ釣り合わないじゃん?だから好きになって貰える資格が―――」

「何言ってんのおバカ。何度も言うけど、わたしはあんたのそういうところも全部ひっくるめて大好きなのよ。告白した張本人のこのわたしが『マコのダメなところも好きだ』って言ってるのに、マコは資格がどうだこうだと言うわけ?」

「……いや、あの……」

「…………あんたさマコ。もしかしなくても……何かが原因で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んじゃないの?」

「…………ッ!!?」


 心臓を鷲掴みにされるような一言に息を呑み、そしてたじろいてしまう私。


「やっぱり……その反応、どうやら図星みたいね」

「なん、で……?」

「……なんでわかったのって顔してるけど、当然でしょうが。これでもわたし自他共に認めるマコの友達よ?あんたの考えそうな事くらいお見通し。親友舐めんなマコ」


 ……あっさり見破る親友に軽く恐怖にも似た感情を覚える私。当然、なのかな……?私が単純で分かり易いだけ?それとも……私の事を好きだって言ってくれたカナカナだからこそ?

 ……いずれにしても自分の心中をカナカナに読み切られてしまっている。ここから下手に誤魔化そうとしても、今のカナカナならすぐに嘘だと見抜いてしまうだろう。


「詳しい事情を聞きたいわ。どうしてマコが他者からの好意に抵抗があるのか。どんな理由があるのかは流石に分からないけれど……でもマコ、あんたがずっと前から何かに対して悩み苦しんでいる事はわたしも薄々わかってた。……話せばすっきりするかもしれないし、わたしも力になれる事があるかもしれない。だから……お願いマコ。話を聞かせて頂戴」


 優しい口調でカナカナは私に説明を促してくれる。……カナカナの言う通り、話せばきっとすっきりする。抱えている物を打ち明けられたら楽になるだろうし、優しくて頼りがいのあるカナカナならば……本当に力になってくれるだろうって信頼している。

 でも……だけど……


「…………」

「……言えない理由があるのかしら?どうしても他人には言いたくないとか?」

「…………」


 ……カナカナの訝し気な視線を避けるように俯いて、ただただ黙りこくる私。そうだ、言えない。このまま厚意に甘えてしまったら……カナカナに無駄な重荷を背負わせてしまいかねない。

 それに詳しい説明する事になったなら……その過程でコマの諸々の事情まで話さなきゃならなくなるし……


 だから言えない。いくら親友だからって―――いいや、親友だからこそ言いたくない……


「…………」

「……黙秘するのね。オッケーわかった。だったらわたしにも考えがあるわ」


 沈黙を続ける私。そんな私を見てカナカナは小さく溜息を吐いてこんな事を言い出した。


「……考えって?」

「一週間も待たせたのに、こんな意味不明な返事をされてもわたしも納得できやしないわ。だからマコ、このわたしを振るつもりなら……ちゃんと納得のいく説明をして貰わないと困る」

「ぅ……」

「もしこれでもまだ黙秘を続けるようなら……無理やりにでもこのわたしと付き合って貰う。それが嫌なら……きちんと説明をしないさいマコ」


 …………的確に私の急所を突いてくるカナカナ。参った……『一週間も待ったのに、納得いかない返事をされたら困る』とか言われたら……説明をせざるを得ないじゃないか……


「……ごめんね、こんな脅すようなズルい言い方をしちゃって。でも……マコったら『好きになって貰える資格がない』なんて悲しい事を言い出すんだもの。そんな事を言っちゃうマコが……わたし心配なのよ」

「…………カナカナ」

「ね?お願いマコ。言ってみてよ。あんたがその大きな胸の内に抱えている物を全部」


 その一言で、私はもう抗えなくなる。ああ、ダメだ……もう私……


「…………カナカナは……他の誰にも、言わない?」

「勿論言わないわよ。マコが誰にも言わないで欲しいなら、わたしは絶対に誰であろうと言わないわ」

「何があっても……秘密にしてくれる?」

「……惚れた女が『秘密にして欲しい』と願うのであれば、貴女の秘密は墓場に持って行ってあげるから安心なさいマコ」

「…………ぅ、ん……わかった……カナカナになら……話しても……いい」


 カナカナに力強く説得されて、完全に折れてしまう私。ポツリポツリと話を始める事に。



 ~マコ説明中~



 6年前両親が仲たがいしていた話から始まって、コマが6月のある日高熱を出したあの日の出来事や、熱を出したコマを一人にしてしまった事、それが原因で生死の境を彷徨った事。

 さらに奇跡的に助かったものの後遺症で今に至るまで治らず仕舞いの味覚障害を患ってしまった事や…………トップシークレットである『私と口づけを交わせば一時的に回復する』というコマの体質の事まで―――これらを順序良く丁寧にカナカナに話してみた私。


「―――なるほどね。事情は大体分かった。でも…………ますます分からないわねマコ」


 そこまで説明し終えた私に対し、カナカナは眉間に皺を寄せながらそう呟く。


「わたし的には今のマコの話を聞いて……カンストしているハズのあんたへの好感度が更に限界突破しちゃったわよ。そんな幼い頃からコマちゃんを荒れていたご両親から守って、心の支えになって。そして死にかけていたコマちゃんを救って……その上コマちゃんが無くしかけた味覚を、6年もの長い時間必死になって治してやろうと尽力してきたんでしょ?」

「…………まあ、一応……」

「素直に感心したわ。妹想いな優しいお姉ちゃんの素晴らしく立派な行動じゃないの。……今の話のどの辺に、あんたが『好きになって貰える資格がない』と思うような話があったのよ?」


 心底ワケがわからないと言いたげなカナカナ。……ははは……買いかぶりだよカナカナ……立派なんかじゃないんだよ……


「……まだ他にあるんじゃないの?あんたがそう思うようになった……何か決定的なものがさ」

「…………ん」

「ここまで来たら包み隠さず全部話しなさいマコ。貴女に一体何があったのよ?」


 ……再度問われる私。カナカナの言う通り、ここまで来たらもう引けない。私も覚悟を決めて……めい子叔母さんにも、ちゆり先生たちにも―――そして、最愛の妹であるコマにさえ話したことのない昔話を始める事に。


「…………これはコマが無事に退院して……めい子叔母さんのお家に引き取って貰った日の話なんだけどね」

「うん」

「それまでの私とコマってさ、自分の家では二人一緒の部屋で……んでもって一緒のベッドで眠っていたんだ」

「…………へぇ。それはまた羨まし―――コホン。その頃から二人とも仲良しで微笑ましい限りね」


 ……?何か一瞬カナカナの口元が引きつったような……?気のせいか……?まあ何でも良いか。話を続けるとしよう。


「叔母さんのお家でも実家と同じようにさ、コマとの二人部屋と一つのベッドを叔母さんに用意して貰っていてね。その日も以前みたいにコマと同じベッドで眠る事になったんだ」

「……ふーん」

「いやぁ……あの日はねカナカナ、本当に……コマと一緒に眠れるのが楽しみで楽しみで仕方なかったんだ」


 何せコマが入院していた時は流石に二人で一緒に病室のベッドで眠るなんてことは出来なかった。だから大体一か月ぶりのコマとの添い寝が出来て……更に言えば今日眠るこの場所は、夜中に父親や母親のヒステリックな声で起こされるようなこともない静かで快適な叔母さんのお家……

 つまりは久しぶりに誰にも邪魔される事のない、マイエンジェルなコマとの二人っきりの素敵な添い寝タイムを堪能できるというわけで。これが楽しみじゃなくて何が楽しみだって言うんだ。


「その頃からシスコンだった私は果てしなくテンションが上がりまくりでどうにかなっちゃいそうだったよ。小学生ながら『コマと添い寝とか何この天国!?ふぉおおおおお!コマのあまい香りしゅてきぃいいいいい!!コマのお肌もちもちぃいいいい!!!』てな感じで。もーテンションアゲアゲだった」

「……あんたホンット……昔から変わってないのねマコ」

「はは……褒めないでよカナカナ。……うん、そうだよ。二人で一緒に眠るまでは……私もそんなバカみたいな事を考えてた…………考えてたよ」

「……ん?考えてた?」

「…………うん。でも、でもね。その日から、コマとの添い寝が……ある意味で、地獄に変わったんだ……」



 ◇ ◇ ◇



 味覚障害という問題は残ったものの、それでも命に別状はなく元気になってくれた最愛の妹との久々の添い寝。すぐ傍にコマの香りが、コマの感触が、コマの温もりがある―――コマが生きていてくれているという実感がある。

 その安心感包まれながら、6年前の私はこれまでにないくらい気分良く眠っていたんだけれど……


『―――ちゃ、ん……ね……ちゃん…………おね……ちゃん……』

「…………むにゃ……?」


 ベッドに入って大体一時間程過ぎた頃。耳元で誰かが私を呼んでいるような、そんな感覚に襲われた私。

 まさかまた父と母が夜中に二人で怒鳴り散らしているのかと、溜息を吐きながら眠い目を擦りつつ状況確認の為に起きてみたんだけれど……


「…………あれ?ここっておばちゃんのお家だよね……?」


 寝ぼけた頭をどうにか覚醒させてよくよく考えてみると、今私が寝ている家は今日からお世話になる事になっためい子叔母さんの家。

 父や母など居るハズなんて無いし、ましてあの二人が大騒ぎしているはずがない(そんな事をしようものなら、めい子叔母さんが二人を即シメ上げている事だろうし)。


 だったら誰が私を呼んだんだ?いや、そもそもこんな夜中に私を呼ぶ者など誰も居るハズ無いし……もしや変な夢でも見ていたのか?そうやって首を傾げつつ、何気なしに私の隣を見てみると。


「―――おね……ちゃん、おねえちゃん、お姉ちゃん…………たす、け……て……たすけて……」

「……こ……ま……?…………っ!?こ、こま!?」


 ……コマが私を呼んでいた。私に助けを求めていた。汗びっしょりかきながら……何度も、何度も何度も何度も何度も何度も『お姉ちゃん、お姉ちゃん』と呼びかけながら、『たすけて』と苦しそうに呟いていた。

 まさかまた熱でも出たのか!?実は何か重大な病にでも侵されているのではないか!?一か月前にも味わった『もう少しで愛する妹を失いかける』という恐怖が再び私を襲い……慌てた私はうなされているコマを抱き上げて必死にコマに呼びかけてみる。


「こま、こまっ!?どうしたの!?だいじょーぶ!?くるしいの!?びょういんいく!?おねえちゃんのこと、わかる!?ねえ、こま……こまぁ!?」

「…………すぅ……」

「…………あれ?こ、こま……?」


 するとどうした事だろう。抱き上げてコマの名前を呼んだ途端、切羽詰まった表情から一変してコマは安堵した様子で愛らしい寝息を立てるではないか。


 ……呼吸も脈も全然荒れてはおらず顔色だって悪くはない……どころか良さそうに見える。だったら今コマが見せた……まるで一か月前のあの日を思い返してしまうような尋常じゃない苦しみ方は何だったんだ……?

 多少疑問に思いながらも、当時の私は『きっとこまはこわいユメを見てたんだ』と無理やり納得させて、コマを抱きしめたまま再び眠りにつく。


…………その日からだ。()()コマがうなされるようになったのは。()()コマがこの私に助けを求めるようになったのは。



 ◇ ◇ ◇



「―――というわけなんだ」

「……」

「その日から毎晩毎晩、コマが眠りに入ってから……大体一時間くらい経つとねカナカナ。コマはとっても辛そうにうなされるの。『お姉ちゃん、助けて……』『お姉ちゃんどこにいるの……?』って感じでね」


 コマにさえ話した事のない昔話をカナカナに打ち明ける私。話を聞いてくれたカナカナからは『流石に何と言ってやれば良いのかわからん……』という感情がありありと伝わってくる。


「……うなされているコマはね……私が呼びかけたり、あと抱きしめてあげたり手を握ってあげたら何とか落ち着いて眠ってくれるんだ。体調の良い時は一晩のうちに一回だけで落ち着いてくれるんだけど…………体調が悪い日とか、あと雨の日とか雷が酷い日とかは1時間ごとにうなされてた事を今でもはっきりと覚えているよ」

「…………まさかあんた……その度に起きてコマちゃんを落ち着かせてたわけじゃないわよね……?」

「え?ああうん勿論そうしてたよ。そりゃ一人の姉としても……コマを辛い目に遭わせた当事者としても当然の事だからね」

「当然って……」


 ……今思うと、雨の日や雷の日にうなされる回数が多かったのはコマの例のトラウマが発動してたって事なんだろうね。

 …………ああ畜生。その時にちゃんとコマに心理療法を受けさせておけばなぁ……もしかしたらコマの味覚障害も早期に緩和出来たかもしれないのに。


「そんな夜が……中学校に上がって私とコマの部屋を別々の部屋にされるまで―――だから多分4年くらい毎日続いたかな」

「よ、4年間……!?待ちなさいマコ……あんた4年もの間、毎晩コマちゃんがうなされているのをすぐ傍で聞いてたの……!?そして……4年間毎晩ずっとコマちゃんを寝かしつけてたって言うの……!?」

「うん、そだよ。……小学校の高学年になって『お姉ちゃん』から『姉さま』って呼び方を変え始めてもね、コマは夜だけは『お姉ちゃん、お姉ちゃん』って辛そうに私を呼ぶんだよ」

「……」


 唖然とした様子のカナカナ。そのカナカナに構わずに、私はそのまま話を続ける。


「……そのコマのうわ言の内容的に……多分4年もの間……いや、もしかしたら今現在も……コマはずっと同じ夢を見ているんだと思う。……苦しかった、辛かった、寂しかった、怖かった……あと一歩で死ぬところだった……コマにとって一番辛い……生死の境を彷徨う事になった6年前のあの日の夢を……」

「……」

「まさに悪夢だよ。……思い出したくもない記憶に縛られて、4年以上も夢の中で苦しめ続けられる事になるなんて……そのコマの辛さは……私なんかじゃ想像も出来ないよ……」


 どうして何も悪くないコマがそんな夢を見なければならないのか。どうしてそんな夢を見る羽目になったのか。

 …………()()()()()()()()。その答えは簡単だ。


「ね?分かったでしょカナカナ」

「…………何がよ」

「悪いのはこの私―――立花マコだって事をだよ」

「…………ぁ?」


 全部、ダメな私が悪いんだ……


「……コマが助けを求めたのは―――父親でもない、母親でもない。コマはね……この私にだけ、『お姉ちゃん、助けて……たすけて』って永遠と助けを求めていたんだ……」


 あの家には私しかコマの味方はいなかった。……私だけがコマを助ける事が出来たし、私を信じてコマを必死に私だけに救いを求めていた……

 それなのに……それなのに私は肝心要な大事なところで、そのコマのSOSに応えられなかったんだ……


「……うなされて、夢の中で私に助けを呼んでいるコマを見るとね、私もそんなコマにシンクロするように……6年前のあの日を思い出すの。あの日のコマの姿が頭の中でフラッシュバックされるの」

「……」


 コマがうなされる度に思い出す。慌てて部屋に駆けつけた瞬間我が目に映った、部屋の中央で倒れたまま震えていたコマの姿を。……顔色最悪で……火傷するかと思うくらい熱があって……もう少しで取り返しのつかない事になっていたコマの姿を。……朦朧としながらも、弱弱しくこの私に助けを求めるコマの姿を…………私は否が応でも鮮明に思い出してしまう。


「その度に痛感させられるの。―――『ああ、妹をこんな目に遭わせたのは全部私のせいなんだ』『私はなんてダメな姉なんだ』ってね……」


 あの日私が無理を言ってでも熱を出したコマを看病していれば―――

  父や母にちゃんとコマを病院に連れて行くように言っていれば―――

   そもそも父と母の仲たがいを私が何とか止められてさえいれば―――


 うなされるコマを抱きしめて一夜また一夜と夜が明けるごとに、なんだかとっても泣きたくなった。自分の不甲斐なさに腹が立ってしょうがなかった。後悔の念に押し潰されてしまいそうになった。自分がいかにダメな人間なのかがよくわかった。


「コマの味覚障害の原因も私。コマと自分が口づけせざるを得ないような可笑しな状況を作り出したのも……その異常な行為を依存させてしまったのも私が悪いの…………そう……ぜんぶ、なにもかも、このだめなわたしが、わるいんだ……ッ!」


 吐き捨てるようにカナカナに言葉を紡ぐ私。


「……ごめんねカナカナ……こんなつまらない話に付き合わさせてしまって。でも……これだけは言わせて。私は……妹一人守れない、守るどころか追いつめてしまった最低な人間なんだ。…………そんな私には、妹を差し置いて誰かに付き合うなんて出来ないし―――誰かに好きになって貰える資格なんてないんだよ……」

「……マコ、あんた……」

「ましてカナカナみたいな素敵な人に好きになって貰える価値なんて一つもないの。だから……ごめん、ごめんね。私……カナカナとはお付き合い出来ません……」


 そう言って頭を下げて謝罪する私。


「…………ハァ……」


 そんな私に対して、カナカナは今日一番の溜息を盛大に吐き―――

コマにさえ隠していたマコのトラウマ物語。もしかしなくても『散々フラグとして引っ張っておいて、大したこと無いトラウマじゃねーか。肩透かしだわ』と思われるかもしれませんが……当の本人―――マコにとっては地獄のような4年間でした。


何せ最愛の妹に責められるようなうわ言を4年間欠かさず毎晩毎晩枕元で聞かされて……ただでさえ負い目があるマコは精神的にも肉体的にも追いつめられていたのです。元々自己評価の低い子ですがそんな地獄の4年間を過ごした結果、中学に上がる頃にはマコは立派な(?)卑屈な人間に。

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